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episode.3-8
最近彼が含みを持たせて、何か言いたげに視線をくれることが増えたと思う。
そして時折其処に、熱の様な…ともすれば愛情の様な。
明らかに他に向けたのとは違う、特別な雰囲気を感じてどうしようもなくなる。
自分だって好きだ。
否、言っておけば恐らく自分の方が先に好きだった。
ただ下らない建前が阻害しているだけで。
「…少女マンガかよ」
全く、仕事にもならない。
下階へと階段を下りながら、自ら叱咤する。
待機所に赴くのも久々だった。
元より情報共有システムで大抵が事足りる上、大方は牧に任せていた。
近付くにつれ、矢庭に騒がしくなる。
しかも萱島が現れるや、絡んでくる輩が多いのだ。
「…お、責任者さんよ」
煙草を挟んだ、明らかに未成年の青年が腰を上げた。
「またジョージの骨でも折りに来たのか?え?ご苦労なこって」
「うるっせえな、引っ込んでろ糞ガキ」
「人の縄張りに土足で入って随分な口利きやがって、やるってのか」
「お前に用は無い、隊長は」
視線で煽る青年を突き放し、簡潔に尋ねた。
一寸も外れない、獣の様な目が細まった。
「寝、屋、川、隊長は」
「奥だ。二度と気安く入ってくるな」
睨み付けたまま漸く道を開ける。
萱島の方も目を離さず、男の隣をゆっくりと過ぎた。
毎回来る度にこれだ。
煩わしいにも程がある。
此処の青年達は寝屋川の元部下や、果ては行き場が無く彼にスカウトされた元売人も居た。
共通するのは全て、彼に心酔している点のみ。
故にこの派遣調査員らの頭は神崎では無い。
寝屋川庵、ただ1人である。
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