52 / 203
episode.3-9
開けたロビーを抜け、会議室の並ぶ通路を過ぎると、やがて拘置所に繋がる廊下が見える。
最端まで見渡すのが困難な、仄暗い視界に会談する人影があった。
(3人…)
寝屋川、その部下のマクドネル、そして本郷。
責任者が人影を忍んで鼎談していた。
一帯を取り巻く異様な空気は何なのか。
迂闊に近寄り難く、まるで倉庫街の取引現場を彷彿とさせる。
会社の闇を見た気がした。
さしもの萱島も躊躇した。
それでも意を決して定距離に入るや、感知した3人の視線が一斉に此方を向いた。
(あ、死んだ)
「…何だお前か、脅かすな」
一転、本郷が柔らかい声を出した。
心臓が酷い勢いで跳ねている。
本当に、射殺されるかと思った。
「さて…今日はお開きだ、お前の土産に期待してやる。また会えばの話だが」
「ああ、またな。ご協力有り難う」
さらりとした挨拶で本郷がその場を離れる。
何の話をしていたかなど、聞きたくもない。
緊張に縛られた萱島を見やり、彼は脚を止めた。
「何だ、顔色悪いな」
「いいえ滅相もない」
「そうだ…お前にこれやるよ」
言うなり鞄から片手程の箱を出す。
受け取り、萱島はじっと眺めて呟いた。
「…何、何ですか、まさか…」
「好きだろ」
それがどうしたと言わんばかりに、本郷は部下を放っぽって去ってしまった。
萱島は暫し箱を携えたまま、その場に立ち尽くした。
真のイケメンは、バレンタインデーにチョコをくれるらしい。
萱島の中で、この記念日に関する新たな定義が成立した。
ともだちにシェアしよう!