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episode.3-9

開けたロビーを抜け、会議室の並ぶ通路を過ぎると、やがて拘置所に繋がる廊下が見える。 最端まで見渡すのが困難な、仄暗い視界に会談する人影があった。 (3人…) 寝屋川、その部下のマクドネル、そして本郷。 責任者が人影を忍んで鼎談していた。 一帯を取り巻く異様な空気は何なのか。 迂闊に近寄り難く、まるで倉庫街の取引現場を彷彿とさせる。 会社の闇を見た気がした。 さしもの萱島も躊躇した。 それでも意を決して定距離に入るや、感知した3人の視線が一斉に此方を向いた。 (あ、死んだ) 「…何だお前か、脅かすな」 一転、本郷が柔らかい声を出した。 心臓が酷い勢いで跳ねている。 本当に、射殺されるかと思った。 「さて…今日はお開きだ、お前の土産に期待してやる。また会えばの話だが」 「ああ、またな。ご協力有り難う」 さらりとした挨拶で本郷がその場を離れる。 何の話をしていたかなど、聞きたくもない。 緊張に縛られた萱島を見やり、彼は脚を止めた。 「何だ、顔色悪いな」 「いいえ滅相もない」 「そうだ…お前にこれやるよ」 言うなり鞄から片手程の箱を出す。 受け取り、萱島はじっと眺めて呟いた。 「…何、何ですか、まさか…」 「好きだろ」 それがどうしたと言わんばかりに、本郷は部下を放っぽって去ってしまった。 萱島は暫し箱を携えたまま、その場に立ち尽くした。 真のイケメンは、バレンタインデーにチョコをくれるらしい。 萱島の中で、この記念日に関する新たな定義が成立した。

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