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episode.3-10
「Hi, buddy」
呼び掛けにはっとした。
単体で十分恐い男が、コンクリートの壁に凭れて笑んでいた。
「何か用か」
「すみませんでしたお話中に…幾つか署名を頂きたい書類が」
「私めのサインでも構いませんでしょうか?」
「ああ、大丈夫…」
傍らから申し出たウッドにバインダーを手渡す。
無骨な手で、しかし丁寧に署名を施す男の隣で、寝屋川は退屈そうに欠伸をした。
少々迷ったが。
萱島は兼ねてから迷惑していた件を、彼に進言してみた。
「隊長、その…出入り口で逐一絡んでくる奴等を、どうにかして貰えると助かるんですが」
「あ?誰だ、サイラスか?」
「今日はバンダナ巻いて煙草吸ってる糞ガキが…」
「ロゼか」
「申し訳ありません、私の教育が行き届いておりませんでした」
ウッドが厳かに双方に頭を下げた。
丁重な態度に鼻白む。
しかしあの年頃が、躾でどうにかなるものか。
「…懲りない奴だな」
独り言の様に零して、寝屋川が壁から背を離した。
定位置のM4とストラップが僅かに音を立てる。
悠然と歩き始める上司を、萱島は慌てて追い掛けた。
ロビーでは未だ青年が煙草を吹かしていた。
彼はロゼと言うのか。
本名では無いのだろうが。
「Rose」
ふっと鋭い目線が上がる。
指先で手招く上司に、彼は素直に歩み寄った。
「What is he to you, Rose?
(彼はお前の何だ、ロゼ)」
隣の萱島を指す。
ただ見ているだけの寝屋川の視線に、青年は打って変わって表情を強張らせた。
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