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episode.3-14
部下の家は流石に最上階という訳でもなく。
エレベーターを3分の2程度で降りた、未だ街のディティールも見える14階だった。
周りは閑静な住宅街で、落ち着いた夜景が広がっている。
ぼんやりと眺めながら廊下を歩けば、前を行く青年が一室の鍵を開いた。
「どうぞ」
扉を支え、中へ促す。
そんないきなり入って大丈夫なのか。
萱島は少し躊躇した。
謎に包まれたプライベートに踏み入るのは、誰しも勇気が要る。
「…良いの?」
「別に、何もありませんけど」
懸念も知らず、玄関に踏み入れるや家主はさっさと奥へ消えた。
残された背後でドアが閉まる。
だがいつまでも此処に居る訳にもいかない。
意を決して中へ上がれば、拍子抜けするほど殺風景な空間が広がっていた。
物が無い。
廊下を過ぎ、辺りを見渡し、萱島は感想へ困る。
調和がとれていて、洒落てはいるのだが…言ってみればサンプルとして出されたモデルルームに等しく、まるで生活感が無い。
「お前、何このCMに出てきそうな家…」
「だから何も無いって言ったでしょう」
キッチンの方角から返事が来た。
だが確かに、彼のスケジュールを考慮するに、自宅など本当に寝て起きるだけの場所に違いないのだ。
「…尚更無駄な広さじゃねーか」
社長ほどではないが。
勝手に好奇心からうろうろと間取りを確かめる。
入るのを躊躇していた、あの殊勝な逡巡は何処に消えたのか。
「エロ本ないのエロ本」
「残念ながら」
「…俺何処にいたらいいの」
「さあ」
萱島は眉を顰めた。
寝室でも漁ってやろうかと思ったが、流石に緊張から大人しくしていた。
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