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episode.3-18

「い、いた…」 引き攣った音に漸く戸和が顔を上げた。 か細い息を紡ぐ、 萱島が消え入りそうな声を出す。 「…痛い、」 震える肩に今更気付いた様に、やっと動きを止めた。 怯えている。 閉じ込めた相手が、想像以上に追い詰められていて、名状し難い感情が生まれる。 「て、手、痛い…」 何処が痛いのかと思えば。 そんなに強く押さえつけていたとは考えられなかった。 好き勝手にしようとしていた上司が、仕方なく手を離した途端。 自分の身体の下で、堰を切った様に泣き始める。 「痛いよ」 もう離したのに。 未だ痛いと言いながら、幼児みたいに止まらない涙を零して、その癖嗚咽を抑えようと必死になって。 何をそんなに追い詰められているのか、前例のない反応へいっそたじろいだ。 「萱島さん」 単純に驚いた。 其処まで嫌がっているのだと知らなかった。 「何も泣かなくても」 袖をぐしゃぐしゃにして顔を覆う。 冷たい頬を撫で、水滴を拭ってやった。 青年からすれば些細な力に耐え兼ね、 細い手首は赤くなっている。 「…ど、どいてって、言った」 「ええ」 「、やめてって」 声を詰まらせる相手を正視した。 嫌だとも、帰りたいとも。 全部言われて聞いていた。 にも関わらず、無視した。 そもそも、そんな言葉。 素直に頷いてやる男が居る筈がなかった。 そんな甘い考えで、無防備な体で、のこのこ家に来る考えなしの貴方が悪いのだと、一頻り説教してやりたかった。 本当は多少なりとも、分かっていながら付いてきたのかと、心の隅で当たり前に思っていたが。 しゃくり上げる彼は違った。 呆れるほど、天衣無縫を絵に描いたような子供だった。

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