65 / 203
episode.3-22
「…、あ」
キスをしてしまった。
その衝撃を引きずる萱島を他所に、青年は更に肩を捕まえ、唇を塞ぐ。
「っふ、ぅ」
さっきと違った。
直ぐには離してくれなくて、呼吸に苦しむくらい、何度も角度を変えて食まれる。
や、ちょっと。
次第に焦燥が募る。
腰が引き寄せられて、逃げ道を断たれる。
「…ん、んん」
こ、こいつ。
耳まで染めて目を見開いた。
抵抗しないのを良い事に、明らかにどんどんと深くなり距離が縮まる。
終には柔らかい熱が唇を舐め、今にも隙間を割ろうとしていた。
「…っ」
突然弾かれた様に身体が離れた。
戸和は驚き、目を腫らす相手をじっと覗き込む。
「…噛みますか、普通」
呆れた表情で見ていたが。
生憎、萱島はそれ所では無かった。
(し、舌が…)
真っ赤な顔で厭らしく、濡れた唇を必死に袖で拭う。
別に生娘でも何でも無い、良い年した男が。
確かにそれ如きで騒ぐのも可笑しな話だった。
「と…戸和くん、その」
「はい」
「だから…心の準備という物があって」
「それが何か?」
「何かじゃなくて…ちょっと、待って下さい…」
嘆願だった。
戸和は噛まれた恨みがあるのか、先よりも冷たい目を向けていた。
ともだちにシェアしよう!