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episode.4-1 「get complicated」

覚醒と共に、五感が首を擡げる。 対蹠的な肌を刺す外気と、腕に抱いた温もり。 何か。 柔らかい感触に疑問を抱いて、腕の中を見やり、漸く腑に落ちる。 (良くもこんなに熟睡出来る物だ) いとけない幼子の様な寝顔に触れる。 矯めつ眇めつ、頬を抓る。 「…ふ」 熟れた唇の端から音が漏れた。 なんて一切を曝け出した顔。 戸和は身を屈め、寝息を紡ぐ隙間を塞いだ。 ちゅ、 下唇を食む。 角度を変え、深くして舐めとる。 萱島が少し苦しげに身動いだ。 舌を差し入れる。 柔らかく。 何の阻害もなく歯を割り、温かい口内を味わった。 「ん、ん…」 流石にしんどいのか、声をあげた。 本能で持ち上がる指先がシャツを掴んだ。 至近距離の睫毛が震えた。 ベッドに零れ落ちる、陽光を反射する。 閉じ込める様に手を突いて、 更に奥へと舌を伸ばす。 スプリングが僅かに軋んだ。 溺れるほどやわく、とろんと力のない。 頑なに閉ざされていた口内は熱く、心地良い。 「…ふ、っ」 寄せられた眉の下で、終に朧気ながら瞼が開いた。 貴石に等しい。 そっと唇を離す。 唾液がつうと糸を引き、卑猥に濡らした。 「ふ、あ」 意味の無い音が零れた。 瞳まで濡らして、ぼんやりした不明瞭な視界に、訳も分からず青年を映していた。 「お早う御座います」 変わらず綺麗な発音が告げるも、萱島は呆然と青年を見ている。 「もう6時だから、起きて」 現状も今し方された行為も至る背景も、何一つ掴み取れていない顔だった。 戸和はいつも上司を見る度鬩ぎ合う、庇護欲と嗜虐心にまた悩まされた。 「……」 そして結局今日も後者が競り勝つのだ。 濡れた唇を拭ってやった癖に、今一度噛み付いた。 「っんー、」 靄は掛かっていたが起きていた。 舐め取られる感触に、萱島は頬を染めて抵抗した。

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