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episode.4-3
「うわー…」
萱島が気の抜ける様な声を出す。
「何その待受、そういうの流行ってんの?」
「時間を見ろ」
「…はい、ああ6時8分。まじで」
乱れに乱れた前髪もそのまま、ぼんやりと零した。
青年の方はさっさと立ち上がり、既にしゃっきりした動作で洗面所へと消える。
「6時…」
8分。
萱島はもう一度シーツの上に崩れ落ちた。
あのお馬鹿。
し、舌。舌を入れやがった。
(……)
無言で今一度掛布団を手繰る。
半分も頭が働いていなかった癖に、やけにはっきりと感触だけは残るものだ。
(最近の若い子ってそんなもんなの)
眉間に皺を寄せる。
温かかった。苦しくて、もう止めてくれと思ったが。
別に酸欠によらず、なんせ…き、
気持ち良かった。
「死にたい」
「萱島さん、何時までそうやってるんですか」
けろりと何処向く風な顔が自分を見下ろしている。
その逆に開き直ったような、何の気後れもない態度に萱島は噛み付いた。
「…お前さ、何だよ。全然遊んでませんみたいな空気出しといてさあ、いざ蓋開けたらチャラっチャラじゃんか。詐欺だぜ」
「勝手に騙される方が悪い」
「まあ、そうです…」
しゅんとまた落ち込んで押し黙る。
いや確かにこの容姿で、経験が少ない方が可笑しいのだ。
どうしてそんな適当でありきたりな服を、これまた適当に着てそんなに格好良くなるのか。
「君は天から一体幾つの物を授かったんだ」
「いいから早く、着替えて朝食…」
淀みなく言葉を並べていた青年の動きが止まった。
接触不良でも起こしたのかと、萱島は怪訝な顔をしたが。
彼の視線は一箇所に釘付けになっていた。
やっとこさ掛け布団を跳ね除けた、相手の格好に。
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