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episode.4-5
***
「え、何だ…それでお前ら、結局何の進展もなしか」
「進展はしたでしょうが…!」
ハンドルを握り、視線は前を射抜いたまま、率直な感想を零す社長に萱島は食って掛かった。
所用で相乗りする羽目になり、どうしてか即刻で外泊の件が露呈し、無遠慮に根掘り葉掘り問われて今に至った。
後部席から身を乗り出し、首を締めてやろうかと思った。
因みに助手席には副社長まで居た。
「小学生の飯事でももう少しあるだろ…可哀想な和泉」
「人の恋愛に口出さないで貰えますかね」
「…そもそも泊まってヤらんって他に何する?何かする事あるか?他に…無いだろ」
「馬鹿か。ヤってたとしてもてめえに言う訳ねえだろ。デリカシーの意味どころか言葉も知らんお前に」
「何だ義世…喧嘩売ってんのか」
「売ってねえよ。死ね」
「お前が死ね」
前方で責任者2人が小学生並の応酬を始めた。
だが正直どうでも良かった。
まさしくデリカシーの欠片もなく、神崎が興味を抱いた話題を放って置いてくれるのならば。
「ティーン相手に怖気付いてどうするよ、本来ならお前がリードしてやるべきなのに」
「り、リード?」
萱島が眉根を寄せた。
あのまるで隙のない相手にリードとは。
頭を抱えて反芻してみるも、毫も理解が及ばなかった。
「…便利なクッキングペーパー」
「そうだな。言った俺が馬鹿だった」
「お前が全面的に悪い事以外あるかよ」
「義世てめえ…いい加減にしろ、言っとくがお前の命は今俺が握ってんだからな」
「そっちこそ妙な真似してみろ。この場で腹に穴開けんぞ」
「うるっせえな殺すぞ」
「俺が殺すぞ」
断っておけば前の2人は決して揉め事を起こしている訳ではない。どうでも良いが。
今更ながら、萱島はティーンという響きに打ちのめされていた。
然れどすべての主導権は、端から彼が手中に掴んでいるのだ。
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