76 / 203
episode.4-10
明け方、神崎は自室のドアを叩く音で目が覚めた。
薄目で携帯を覗く。
午前4時24分。
億劫そうに身を起こし、さっさと扉を開けた。
廊下に立っていたのは同居人の本郷だった。
「…何だよ」
「よう、相変わらず間抜けな面だな」
口元を歪にゆがめる、
その所作を目に、神崎は咄嗟に後退っていた。
「お前…っ、相模か、何だお前まだ居たのか」
「随分な言い草だな?友人を助けてやったのに」
肩を竦める男の胡散臭い仕草を、実に久し振りに目にした。
そして話の意図が掴めず首を傾げる。
友人とは本郷の事か。助けたとは。
「俺も未だ死ぬ気はないし、身の危険を感じて出てきた」
「死ぬ?」
「案の定意識がはっきりした時、奴は拳銃を構えてた」
己の米神を指した。
神崎は訳が分からず閉口した。
自殺を謀っていた?
本郷が?何故。
「あの馬鹿は悲観的でロマンチストで存外に根暗だ」
「…それは知ってる」
「そう、なら分かるだろ。嫌気が差したんだ。どうも身体が馬鹿みたいに重い…あのマゾが何日寝てないか知らんが、態々鉛弾なんざぶち込まなくとも、放っとけば過労でおっ死んでたろうに」
淡々と相模が事を述べた。
何度見てもこの男に慣れないのは、その立ち位置自体が理解の範疇を超えている為だった。
さて、それを差し置いても話の内容へ眉根が寄る。
あの根暗に其処まで求めていた訳じゃない。
ただ彼がその状況に追い込まれていたのは、無論神崎とて存じていた。
「兎に角俺はアイツの仕事は出来ないし、やる気もない。何より早々と寝たい」
「成る程」
「これをやる」
手帳を渡された。
本郷がいつも肌身離さず持ち歩いていた物だ。
端からぱらぱらと頁を捲るや、吐き気を呼び起こすレベルの字数が目に飛び込んだ。
ともだちにシェアしよう!