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episode.4-14

結局その日電話はひっきりなしに鳴った。 ただし萱島の方ではない。 便宜上一緒に携帯していた、本郷宛の物が大半だった。 「うるっせー…何だ畜生、ちょっとは考えろよ。昼時は避けるのがベターだろ」 テラスで広げた書類の傍ら、BLTを貪っていた萱島が苦言を呈した。 努力の末10分設けた折角の昼時に、何故良くも知らないおっさんの相手をせねばならないのか。 機内モードにしてやろうかと鳴り止まぬ携帯を取り上げる。 ディスプレイを目にすると、登録されていない番号だった。 「……」 急に第六感の様なものが働いた。 このまま見過ごせば厄介な事態に陥る気がして、杞憂だろうがBLTを咀嚼して通話キーを押した。 「…はい」 『あの、私矢沢千鶴と申しますけれど…こちらは本郷の携帯でしょうか?』 時が停止したかと思った。 はっきりと明瞭な発音で告げられた“千鶴”の名に。 ごくり、とアイスティーを飲み下して萱島は片眉を上げた。 元妻と言えど、社用の番号をどうやって耳にしたのか。 「左様で御座います…本人は急病で休みを頂いてますので、ご伝言なら私の方で…」 『急病?本当に…?』 彼女の語調は心配では無かった。 疑い。それに尽きた。 『ちょっと、本人にそう言う様に頼まれたんですか?済みません、私彼の元配偶者で…大事な話があるので代わって下さい』 危うく紙コップを握り潰す所だった。 萱島は此処に来て、いよいよ予てから募らせていた不信感を露わにした。 「…急病、で、休みを、と申し上げたんです。此処には居りません」 『貴方どちら様?名前を伺っても?』 てめえは何様だ。 怒鳴りたくなる衝動を封じ込め、努めて静かに吐く。 「萱島と申します…失礼ですが私も出先ですので、また後日折り返すよう本人に伝えて…」 『それじゃ駄目だって言ってるんです!今伝えて下さい、私用の携帯にも反応が無いなんて…可笑しいじゃないですか、貴方は連絡を取れているんでしょう?』 一体この女性は幾つだ? 目眩がした。 娘の年から考えて、本郷と同様かそれ以上は重ねている筈だが。

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