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episode.4-15

『私から逃げてるんじゃないですか?何にしても、貴方に阻む権利なんてありませんよね?』 「…一個だけ、欠点があった」 『…は?』 額を押さえて机上を睨んだ。 外見も中身もセンスですら完璧だと思われた彼は唯一。女性の趣味が最悪だった。 萱島は断言出来た。 彼女は、間違いなく彼を追いやった一端だ。 「先から黙って聞いてれば勝手な事をベラベラと…貴女は何か、多少なりと自省したり…他人の気持ちを慮った事はありますか?」 『何、何言ってるの?そんな失礼な口利いて良いと思ってるの…?』 電話口の相手が動揺を見せた。 もうこの後面倒臭いことになろうが、どうだって良かった。 兎に角今、この身勝手な女性に業腹で仕方がない。 「人が貴女の思い通りに動かなければ不満か?…冗談じゃない、万人のシナリオが、貴女を主役に書かれている訳じゃない」 『ちょっと、関係ないでしょう、口を慎みなさいよ』 「彼には彼の人生がある、貴女にそれを邪魔する権利なんて…夫婦なら許されるとでも?」 彼女は未だ罵声を浴びせていた様に思う。 ただし聞こえてはいなかった。 テラスを囲む他人の談笑や、すり抜ける車のエンジン音、取るに足らない背景の雑音と同程度に。 「本郷さんは貴女を再優先する義務なんてない…そもそも、貴女の為に生きてる訳じゃない!」 カラン、とアイスティーの氷が崩れ落ちた。 音はそれだけだった。 彼女は呆然としていた。 もう何も、喧しく噛み付く気配すら見せなかった。 声を荒げた萱島を、遠巻きな人々の視線が少しばかり刺した。 徐々に炎が溶かされる。体内の安全装置が作動し、脳に消火剤を流し始めているらしかった。 「…失礼します」 果ては一方的に電話を切った。 ふと目を向ければ、手中で書類が塵屑になっていた。 (やらかした) どう考えても出過ぎた真似だ。 けれど、もう良いかと思えた。 この感情をぶつけてやらない方が、後になってこの局面を振り返った時。 歯痒さに苛まれ、どうせまた思い悩むに決まっているのだから。

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