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episode.4-16

*** 太陽が東から西へと追いやられ、色彩を伴って地平線へ沈む。 呼応して、辺りに夜の空気が吹き出す。 短針は二度目の帰還を果たしたが。 未だ住人は帰らず、神崎の自宅は沈黙していた。 ガチャン。 錠の外れる音が深夜に響いた。 些か乱暴にドアが開き、また閉まる。 覚束ない足音と共に、漸く人の気配が現れた。 荷物を投げ捨て、リビングと自室すら通り過ぎ、帰宅した萱島は一目散に奥の部屋へと向かっていた。 目的の場所は殊更に静かだった。 麻酔を打たれ深い眠りに落ちた男と、幻想的に差し込んだ光があるだけで。 「…本郷さん」 呟き、萱島は耐え切れずその場に座り込んだ。 ベッドの縁に頭を預け息を吐く。 携帯を探り当て時間を確認すると、既に丑三つ時に差し掛かっていた。 (3時間は寝られる) 首だけを擡げ、ぼんやりと寝息すら聞こえない彼を眺める。 目の前にあった手を掴んだ。 体温を感じて少しは安堵した。 「一応ね…頑張ってはみたんですけど。全然だめ、貴方の代わりなんて難しい」 初日でこれなのだ。 頭痛が酷くて、考えが纏まらなくてどうしようもない。 「千鶴さんに失礼な事も言ったし」 此方は大して反省していなかったが。 「…でも大丈夫、明日からは多分、もっと上手くやれるから」 シーツに顔を埋めた。 くぐもった声が、ほんの僅か空気を震わせた。 「好きなだけ寝てて下さい」 慣れない事をして限界が近かった。 今まで専ら内勤で、タクシーを捕まえて彼方此方走り回る経験など無かったのだ。 性根の腐ってそうな商会長には、散々覚えのない嫌味を言われるし。畜生。 苦心して今日ばかりは癇癪を起こさずに済んだが。 (何でそんなに、頑張っていられたんだ) 瞼が落ちるままに任せ、朧気な思考で彼を思った。 こんなに辛い毎日を、何を心の支えにして走っていたんだ。 掴んだ本郷の手を握り締める。

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