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episode.4-19
「泣かなくて良い」
腕の中の存在が不思議だった。
異なる別個の生命が、こんなに零距離に居た。
冷たいのに温かい。
頼りないのに、大きい。
胸に顔を埋めていた萱島が視線を上げた。
水の張った大きな目が、見ていた。
「…ごめんな、俺1日寝てたか」
「そんな事は気にしてない」
萱島は不貞腐れた様に呟いた。
「今日も寝てたらいい」
「仕事行くよ、お前が代わりに回ってたんだろ」
襟を掴まれた。
行き場のない感情を持て余し、萱島は握り締めて俯いた。
「…貴方は嘘をつく」
とても切ない声だった。
闇の中母親に、置いて行かれた雛鳥を思った。
「俺に隠し事をしないって、言ったじゃないですか」
いつの夜だっただろう。
もう随分と前の事のような気がする。
そう言えば晩御飯を作る傍らで、指切りをしたのだ。
それをずっと今まで、萱島は胸に覚えていたのだ。
「隠し事なんてしてない」
頭を振った。
突き放そうとした本郷を、相手は未だすべてを持って追い掛けた。
「本郷さん」
いつだって真正面に居た。
「ちゃんと、俺を見て」
どうしてか、こんなにも必死な思いで。
「ちゃんと言って、思ったこと、何だって良い」
本郷が目を見開いた。
異界から突然、童話の鳥が舞い降りた。
「どんなに詰まらない事でも、聞くから」
見えない様に張っていたボーダーラインを、萱島は脇目もふらず飛び越えた。
「約束して」
酸素では無いのだ。
彼の人生に於て、必須の物ではない。
それなのにまるで、自分が死んでしまう様に無我夢中で見ていた。
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