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episode.5-3
やがて眼前に壮大な山々が連なった。
果てのない空を背景にした麓に、ぽかんと人工的な建造物が浮かんでいた。
城と言うには些か大袈裟だが。
邸、と言うのも語弊があった。
建物を目前に車が停止した。
着きました、と簡素に告げるや依頼主は早々と助手席を後にした。
「…隊長」
「arrive?」
揺さぶると漸く隣の上司が薄目を開ける。
そのまま半ば引き摺る様に車を後にし、依頼主の背中を追い掛けて門を潜った。
「――ご足労頂きまして有難うございます、今回お願いしたいのは父の遺産について」
毛足の長い絨毯に踵が引っ掛かる。
道先案内と共に、依頼主の鳩部が改めて概要を述べた。
「先般病死した父は金銭以外に、宝を仕舞い込んでいたようで」
「宝?」
「そう、宝です」
枯れた相貌が此方を射抜く。
胡散臭い話だ。
何処の映画かと眉に唾をつけたくなる。
「…その所在を調査しろと?」
「いいえ、現物はもう管理下に御座います」
増々萱島は怪訝な顔つきになった。
寝屋川は聞いているのかいないのか、ぼんやりと壁の絵画を目で追っている。
「此方へ」
個人の書斎だろうか。
10畳間ほどの小部屋に通され、鳩部の付きが徐ろに金庫を取り出すのを見守った。
3重の鍵が施された扉が開いた。
小さな金庫だ。
何を出すかと思えば、鳩部の手中には更に堅牢な箱が乗っていた。
「書斎にありました」
「…えーっと…それが宝とやらで?」
「ええ、恐らく。しかし開かないのです」
控えていた男が小型の金属カッターを持ち出した。
刃を立てるも、不気味な光沢を放つ正四面体には傷すら及ばなかった。
「熱も衝撃も粗方試しました。我が社の技術力を持ってしても開かない。そもそも、その様に手荒に扱って良い物なのか…ともすれば、この箱自体に希少な価値があるのではないか。検討もつかず途方に暮れている」
ようやっと話が見えてきた。
要は物体Xの正体を突き止めろ…という依頼らしいが。
萱島は首を傾けた。
大分うちが扱う範疇からずれている風に思える。
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