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episode.5-4
「…いえ、何も構成物を調べてくれ等と無茶は言いません。私共も社内に知見は御座いますから。貴方がたに依頼したいのは、これの製作者を探して頂きたいのです」
「製作者?」
「ええ。この第二書斎から箱と共に、父がその製作依頼を交わしていたとみられる手紙が見つかりました」
金庫の中には畳まれた便箋も存在した。
今の世にアナログとはまた古風な。
考えてみれば、その方が安全性が高いのかもしれないが。
許可を貰って文面に目を走らせる。
日本語だった。
無論署名はない。
如何にも硬い文章を追う最中、その内容よりも字体に注意が行った。
何処かで。目を眇める。
定かでないが、何処かで見た事のあるような。
「…此方はお預かりしても?」
「勿論、この書斎に限らず邸の中も自由に調査して頂いて構いません」
鳩部は当然の事だと頷いた。
その寛容な態度が、逆に箱の重要性を浮かび上がらせていた。
何度見ようが継ぎ目の無い、気味の悪い塊だ。
さてそんな大切な物が、こんな箱の中に閉じ込められているのか。
「…父は厄介な人間でね」
萱島の疑念を悟ったのか。
ぼつりと鳩部は少々腹の内の事情を零した。
「我々が相続した額が、どう考えても彼の資産と算盤が合わない。何か他に、どでかい物を隠しているのは明白でして」
「それが故人の意志なら仕舞っておいた方が良いのでは?」
脱税云々の倫理観など持っていない。
おまけに、思ったことをつい口に出してしまうのが萱島の性格だった。
「いいえ、出来かねる。当社は実は…先代から莫大な負債を抱えている」
衝撃的な台詞に萱島の動きが止まった。
よもやこんな所で、とんでもない話を耳にしてしまった。
どうかご内密に、と眉を顰める取締役に閉口する。
国のトップ企業が経営危機に瀕し…決算書やらを誤魔化していたというのか。
「調査の結果は可能な限り早く、遅くとも今月中には頂きたい。我々の側でその他の方法は模索します。特にこの箱の素材と構造は元技術者としても、経営者としても非常に興味深い」
「ああ、ええ…勿論、全力を尽くします…隊長…隊長、話聞いてました?」
その場で明後日の方向を見ている上司を引き戻しにかかった。
寝屋川は壁に凭れたまま唐突に口を開いた。
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