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episode.5-6

「帰るか」 「…承知」 2人のやり取りに鳩部が漸く意識を向けた。 はっと人として取るべき行動を思い出す。 こんなものは契約の範囲外だ。 客人らだけでも、安全な場所まで送り届けなければならない。 「申し訳御座いません、またお話は改めて…一先ず下に降りましょう」 「もう来たぞ」 「え?」 寝屋川の指摘へ、殆ど反射的に彼の視線を追う。 矢先、邸のドアを爆風が吹き飛ばした。 TNTの火薬臭が充満し、凡そ日常で経験しない音が轟く。 一帯へ瞬く間に粉塵が立ち込める。 当たり前に身を伏せる依頼主らの傍ら、萱島は急展開に目を白黒させていた。 『――…元気か兄貴!物は何処だ?今なら間に合うぞ、此処に持って来い!!』 拡声器から割れた声がぐわんぐわんと邸内に反響する。 如何にも暴力的にこじ開けられた玄関から、物騒な改造車の集団が垣間見えていた。 ひええ。萱島は泣き言を言いたくなった。 なんだってこんな、安寧の国に。 武装集団が民間人の別荘に突っ込む、そんなシチュエーションが許されて良いのか。 「あの馬鹿め、矢張りロクなコミュニティに属していない様だな…真っ当かも分からん軍人など引き連れてきよって、誰が易易とやるものか!」 「な、何をおっしゃいます鳩部様…!この場はどうか安全を第一にお考え下さい!」 付きの男が悲痛な声を上げた。 全くだ。萱島は無言で其方に賛成した。 しかし参るのは自分達の現在地だ。 今居る書斎前はロフトの様に壁から突き出ており、階下に降りる術は広間のど真ん中――要するに玄関の真正面にある螺旋階段のみだった。 (もう嫌だこんな展開) すっかりスリル依存症から解放された今、消沈して両手で顔を覆う。 「餓鬼のままでかくなった男が…何でも己の思い通りになると上せるなよ。おい八代!警備員を全て此処に呼べ!」 「は?何を…まさか交戦でもおっ始める気ですか…?警察に連絡しますから、大人しくなさって下さい!遺産の件はその後でどうとでもなるでしょう!」 「私に命令するな!アイツだけは前々から勘弁ならんかったんだ、今が良い機会だ!良いから早く警備員を呼べ、うちの者も訓練は十分に積ませてあるぞ!」 「いや訓練たって…」 付きの彼の言い分の方が、よっぽど道理が分かっていた。

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