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episode.5-7
この経営者、冷静な司令塔かと思いきや。
弟と似たり寄ったりの、とんだ短絡的思考の持ち主ではないか。
「瀬矢か!?私だ、鳩部だ!さっさとあの馬鹿共を追い払え!」
「勘弁して下さいよ…!」
無線で警備員に発破をかける鳩部に側近は青褪めた。
拡声器の秒読みが虚しく遠くに響く。
「隊長、帰れないんですけど」
「Fuckin' hell…So long as there are men there will be wars」
「どうします?」
「ポリ公が来るんだろ」
「…山の中ですよ此処」
萱島は眉を潜めた。
山道を1時間は走った覚えがあった。それまでに何人か死人が横たわっていそうだ。
そうこうしている間に、階下へ足音が近付いてきた。
警備員が到着したのだ。10人程度で構成された一行は、遠目に見ても余り顔色が芳しくなかった。
明らかにこの状況に気圧されている。
エモノを構えながらも、お互いをチラチラと見合い、物陰に隠れながら実に中途半端な姿勢で現場を伺っていた。
「瀬矢何してる!さっさと侵入者を追い出すんだ!」
『…あ、あれは軍隊ですか?鳩部様、我々はその様な…“実践的な”撃ち合いなど…』
「馬鹿野郎!貴様ら日本男子だろう、言い訳するな!」
キャラ変わっとるがな。
荒ぶる依頼主に呆気に取られた。
哀れな警備員らは途方に暮れていたが、侵入者の側からも彼らは丸見えである。
『何だ…もしや抵抗する気か?愚かな判断だな、せいぜい後に今の自分を恨め!射撃用意!』
「射撃用意とか言ってますけど」
「I hear」
「下品な物を向けてきおって…瀬矢先手必勝だ!構わん、撃て!」
「もう黙って下さい社長!」
「撃てとか言ってますけど」
「Son of a bitch」
『「――撃て!!」』
側近の懇願を両者の怒号が切り裂いた。
当然、火を噴いたのは対岸の火器だった。
凄まじい機銃の掃射に、為す術もなく階下の警備員らは這いつくばっている。
鍛えているとは言え彼らはただの警備員だ。それ以上でもそれ以下でもない。
可哀想に。頭を抱えて泣き出す者まで居た。
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