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episode.5-8

「経営者って人種は皆イカれてるんですか!」 「一緒にしてやるな」 「…どっちを?」 「その他大勢を」 たださしもの鳩部も、機銃の威力にすっかり怒気を削がれていた。 今はただ、目を丸くして削れていく柱を凝視しているだけだ。 キーン、と固い音がしてNATO弾が壁に跳弾した。 ほぼ同時に警備員の1人がもんどり打った。 「…FUBAR(Fucked up beyond all recognition)」 傍観を貫いていた寝屋川が舌打ちし、漸く腰を上げ依頼主へ詰め寄った。 「Hey, Mr」 鳩部が蒼白な面を上げる。 彼は今その存在を思い出したかの様に、虚を突かれていた。 「道を開いてやる」 「は…」 「連中を退かしてやると言ったんだ。俺は命を懸けるが、そっちは?何を出す」 いつもの高低差の無い、淡々とした声が問い掛ける。 鳩部の喉がごくりと鳴った。 何を無謀な事を…などと一蹴しかける。 然れど目前の男の眼光は、笑うにはあまりに恐ろし過ぎた。 「…現状を打開できるなら、3…」 乾いた唇を舐め、鳩部は訂正する。 「いや…5億上乗せする」 その金額が見合うのか見合わないのか。 生憎判断する術もなかったが。 「…Sissy(臆病者め)」 去り際上司が呟くのを、図らずも萱島は拾ってしまった。 「萱島、注意を引いてやるから下へ走れ。恐らく大腿を撃たれてる」 「応急処置なんて知りませんよ」 「直接圧迫で止血しろ。動脈出血の場合上を縛って、心停止状態なら心臓マッサージ。他は今は良い」 「…了解」 CZ75を抜いて不承不承答えた。 救急車も小一時間は掛かるのだ。それにどうも、あの警備員らに冷静な処置が出来るとは思い難かった。

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