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episode.5-9
混乱の最中、スポーツバックから堂々とM4を出した寝屋川へ鳩部は言葉を失った。
何だコイツはと言わんばかりの形相だが、自分を棚に上げるなと指摘してやりたくなる。
「数が多い、中央のM2以外はどうにかしろ」
指示は萱島宛だった。
放り投げられた気分で、思わず唇を尖らせる。
「合図したら走れ」
上司が此方に顎をしゃくる。
こんな時に何だがお腹が空いてきた。
そう言えば昼食を食べ損ねたのを、萱島は今になって思い出していた。
(この間の蕎麦は美味しかった)
社長のカードで勝手に食べ歩いていた中見つけた、老舗というよりは小綺麗なチェーンだったが。
山菜の天麩羅が絶品だった。
(お蕎麦食べたいな)
鬼気迫る一帯で呑気な事を考える。
そんな萱島を放っぽって、俄に手前で撃ち合いが始まっていた。
「えっ…ちょっと」
M2とは、音速の3倍で50口径弾をぶち込む反則級モンスターだ。
対人使用は推奨されておらず、先ず民間で目にする機会は早々無い。
「――Hey, buddy!Let's move!」
「…れ、レッツムーブ…?」
何を仰いますやら。
聴覚が馬鹿になりそうな掃射の中、萱島は思わず問い返した。
今この柱から出ようものならボロ雑巾にされる。
間違いなく1メートルと進めない。まさに弾幕である。
鳩部と側近はソファーの後ろにしがみついていた。
先の勢いで突っ込めば良い物を。巻き込まれた身故に憮然としていた先、目前の柱が砕け散った。
「は…!はああ!?隊長!柱無くなりましたよ!」
「M2's a .50‐caliber machine gun. Dodge all shots(50口径だ、全部避けろ)」
「そんな無茶苦茶な!」
「Okay, Okay…There now, don't cry, there's Cutie(分かった分かった、泣くなかわい子ちゃん)」
掠れた声音が宥める様に甘くなる。
小馬鹿にしているのか、元々そういう性格なのか。
扱いが不服で黙り込んだ先、上司は毫も躊躇いなく弾幕へと走り出していた。
「え、あ…」
咄嗟に意味もなく手が伸びる。
寝屋川は削れる地面を駆け、雨あられと注ぐ弾中を豹の如くすり抜けた。
しかし螺旋階段までは遠い。
萱島もどうにか援護を打ち込むが、ハンドガン如き大怪獣は痛くも痒くもない。
「隊長あの待…」
恐怖からつい呼び戻そうとした。
矢先に彼はギャラリーの柵を越え、優に10メートルはあろう2階から身一つで落下した。
人の着地安全限界は5M。10Mなら水面落下でも危険。
自殺行為としか思えない所業へ、萱島は口を開けっぱなしに立ち尽くしていた。
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