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episode.5-10

フィクションならばこの場面で絶叫していた。 現実は声も出なかった。 思わず遮蔽物より身を乗り出したが、彼は軽い受け身のみで衝撃を殺し、次には何事もなくフロアを走り出す。 驚嘆する傍ら、ふと訪れた静寂へ違和感を覚えた。 機銃の音がしない。 咄嗟にM2を見れば、射手が車上より崩れ落ちていた。 「お、おいロイド…!」 敵は呆然と主力ハンヴィーを仰いだ。 既に射手は息絶え、ぐったりと車体へ凭れ掛かっている。 「あ、あの野郎…落ちながら撃ったぞ…」 経緯を見てしまった男が、歯を鳴らして後退る。 動揺しつつも、直ぐに次の男が機銃へと走る。 寝屋川はその報復も許さず、直ぐさま銃身へグレネードを撃ち込んでいた。 「しまっ…!」 銃身が被弾して砕け散った。 替えの銃身など不要だと笑っていた手前、重機関銃が置物と化した。 無力化されたM2を前に、無法集団は意気消沈している。 疎らな反撃とやり合いながら、寝屋川は何やら階下から手信号を寄越していた。 「ひええ…」 早く来いという事らしい。 SFの光景へ変な汗を掻きながら、萱島は正規ルートで階下へと走る。 知ってはいたが、完全復活を遂げた彼の能力値がチートコードレベルだった。 どうにか地上へ降りると、負傷者は客間へ続く廊下に横たわっていた。 一応の止血はされているものの。 生気はまるでなく、心臓が動いているかも疑わしい。 先ずは安全な位置へ搬送すべきか。 思案していたところ、何やら傍らで上司が矢庭に警備員の胸ぐらを掴み上げていた。 「――What's the matter with you anyway!?」 「え、あ…ぱ、パードゥン?」 警備員が情けない声をあげる。 「Who just signed his own death warrant?You little maggot! You make me want to vomit!Fuck!」 「たい、隊長…ちょっと、落ち着いて」 「萱島、お前はその辺りの馬鹿から無線機を借りてこい」 一転冷静な声に命令を投げられた。 警備員はすっかり身を竦め、必死に此方へ助けを乞うている。 「あ…了解です」 「What are you waiting for?Fire. Give it all you got!That thing'll tear us to pieces!(テメエらは何をグズついてる?撃て、殺されたいのか)」 「W, We…We have never taken part in the actual fi…」 「The first and last words will be "Sir"!!(サーを付けろ!)」 バキィッ! あ、と萱島が気付いた頃には時既に遅く、警備員は裏拳で3メートルほど後方に吹っ飛んだ。

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