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episode.5-12
鼓膜を震わせる音。鼻を焼く火薬の匂い。漏れ出すアドレナリン。
全てが久しい。
(ああでも)
R5を担いで跳躍した。
追い付けない敵を置き去りに、壁を蹴って頭上に身を翻す。
(嫌いじゃ、ない)
視線でも捕まらない。
男の脳天に萱島は重力を乗せ、叩き割る勢いで突撃銃を振り下ろした。
「う、ぐ、あ」
白目を向いて男が昏倒する。
振り向きざま、ついでに隣の木偶の坊を顎から蹴り上げた。
麗らかな午後の昼下がり。
大学程の面積はありそうな敷地を、憚りなく1つの影が歩いて行く。
何だか鼻歌でも歌い出しそうな身軽さで、彼はその先の惨状も厭わずすたすたと本館を目指していた。ところが。
「…うわ、もう何?」
緑地に見惚れていた手前、俄に足元に跳ねた銃弾に眉を潜める。
つい素の反応が出た。
そして此方に銃を向け、何か拡声器で喚いている一団を発見して脚を止めた。
『――何者だ貴様!此処は私有地だ、早々に立ち去れ!』
退役軍人だろうか。
そちらこそ穏やかな風景にそぐわぬ格好で、我が物顔で本館の入り口を塞いでいる。
雑用でスワロフ社前会長の別荘へ来たものの、とんだ面倒が起きていた。
『それ以上前に出ないで下さい、危険です』
今度はインカムから命令が流れ込む。
喧しい連中だ。
どちらも構うに値せず、御坂はさっさと用件へと先を急ぐ。
『御坂!聞いてるんですか!自分の胸に何を埋めたかお忘れか!』
「だったら君が前に出れば良いじゃない、頭使いなよ」
煩わしくも返してやれば、遠慮のない舌打ちが飛んだ。
『…いい加減にしろ機関の人間め、テイラーの件といい勝手が過ぎる。此処は一端我々の…』
「やあ君達、此処のご主人に用があるんだけど」
『聞け!』
狙撃手の叫びも虚しく、研究者は甚く朗らかに一団に声を掛けた。
が、振り向いた強面は押し黙る。
微塵も武器を恐れず近付く男へ、対処に困り狼狽しているらしかった。
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