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episode.5-15
「久し振りだね、元気?」
変わらぬ挨拶を寄越す所長は、甚く柔和に笑んでいる。
臓器の提供元のお陰か、はたまたその息子の関係者のためか。幸いいつも此方に対して向けられるのは好意だった。
「…何の用だ?」
「お墓参り。前会長には僕も生前世話になっててね、お線香くらいあげようかと…あ、ねえねえ」
其処で御坂は、車の運転席で震えている男に声を掛けた。
男は塞ぎ込み、呆然とハンドルに縋り付いている。
当然声が届く筈もない。
「墓地の場所教えて欲しいんだけどさ、知ってる?」
コンコンと軽く関節で窓硝子を叩いた。
漸く気付いた男が飛び上がった。
そうして何か、幽霊でも見たかの様な顔で、慌てて車を動かそうとギアを回す。
「知らなそうだね」
「おい御坂」
後退する手前でタイヤが破裂した。
傾く車体に、運転手は今度こそ退路を断たれ絶句した。
撃ったのは無論、寝屋川だ。
構えていたM4を肩に担ぎ直すや、元軍人は両手を束ねて詰問を始めた。
「あの妙なもんを作ったのテメエだろ」
「妙なもん?」
「とぼけるな、箱だ」
御坂は演技なのか素なのか、やっと合点がいった様子で破顔する。
「…ああはいはい!あれが何、どうかした?」
「今この状況がその所為だ」
「分かる様に頼むよ」
「良いから早々と主人の所に行け。お前に会わせりゃこっちの仕事は終わりなんだ」
顎をしゃくってせり出した上階を示した。
ふむ。御坂はポケットに手を入れたまま、言われた方角を仰ぎ見る。
柱の影に這いつくばり、男がちらちら顔を覗かせていた。
あれは前会長の息子か。
どうやら彼が、この2人の依頼主らしいことは理解したが。
「君の頼みとあらば喜んで。ところで萱島くん起きないけど大丈夫?」
「強く殴り過ぎた」
しゃがみ込み未だ気絶した部下を覗き込む。
その鋭い目が、良いから早く行けとばかりに御坂を促した。
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