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episode.5-16
鳩部は沈黙した階下を見下ろし、次手を迷っていた。
一転した静寂の中。
赤い絨毯の上を、悠々と此方に近付く影がある。
何者かと覗き込めば、合成の様な白衣が視界へ翻る。
その徒ならぬ雰囲気へ、思わずうっと気圧されていた。
「鳩部社長?」
カンカン、と螺旋階段を上る靴音が大きくなった。
目前に来ている。
鳩部は意を決し、漸く立ち上がって白衣の男を出迎えた。
「…私です」
「ああ、初めまして!御坂と言います。どうも」
えらくフランクな男だ。
満面の笑みへ面喰い、瞬く間に相手のペースへ呑まれてしまう。
「突然すみません、お父上にご挨拶がしたかったんですが…何か凄い事になってますねえ。箱の件で何か?」
「箱…と申しますと…あ、も、もしや」
付きの者の方が行動が早かった。
彼は金庫を開け、恭しくその場に現物を差し出した。
「これがどうしました?」
「その、一体何なのかと…」
「開けましょうか?」
「え、あ、か…可能なんですか?」
御坂はきょとんとして目を瞬いた。
「勿論」
固唾を飲んで見守る両者の手前、所長は至極平静な顔で箱を持ち上げる。
そうして何をしたかも知れないが、彼は正四面体にどうも…恐らく特殊な負荷の掛け方をしたのだろう。
この世の技術では無いのか。
そんな疑念を抱くほどに、さんざん悩み抜いた箱はぱくりと口を開けていた。
「……な!」
「ふむ、中身までは知らなかった」
御坂が何かを取り上げた。
一体、其処には何が。
もう解かれた問題には目もくれず、鳩部は必死に宝の正体へと迫る。
「み…見せて頂けますか!?」
「どうぞ」
震える手に真相が滑り落ちた。
慌てて覗き込めば、掌にはほんの小さな金属が光っていた。
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