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episode.5-19
「お昼食べてない!」
「そんな事は覚えてんのか」
憮然と寝屋川が返す。
勝手に書斎から這い出し、部下は一層不服そうに我が儘を並べる。
「何で俺此処に居るんですか?人の家嫌いだし、早く帰りたい」
「良いからもうちょっと大人しくしてろ」
「嫌だ!」
嫌だだと。
寝屋川はUMAでも目撃したかの様に口を噤む。
ぶつけた拍子に制御器官に損傷でも受けたのか、何にしても一度病院に連れて行った方が良いのか。
「今仕事中だろうが」
「しご…」
吊り上がっていた眉尻が下がる。
事情の分からない依頼主も我儘に唖然とする。
そして聞き分けの悪い子供と化した部下は、その場であろう事か泣き始めた。
「な、なんで蕎麦食べたいっていってんもん…」
ぼたぼたと絨毯に水玉が出来た。
そもそもが今、此処に居る経緯すら忘れてしまったのだから、不安な胸中は察するが。
正直わけの分からん理由で号泣し出した部下に、寝屋川ですら対処し兼ねていた。
「な、何か用意させましょうか…」
終に依頼主まで気を遣う。
「…いや、用は済んだしもう帰る」
長居する理由もない。
序に病院に行くなら、早い方が良いだろう。
「ほら行くぞ」
「………」
態々差し出してくれた手を、萱島は無言で叩き落した。
「Hey, doll」
うんともすんとも言わない。
拗ねて絨毯を睨む子供は、ファルージャの英雄を甚く困らせた。
蕎麦どうのこうのは知らないが、殴ったのは確かに非がある。
じっと見詰めていたものの埒が明かず、寝屋川は最後には無理やり部下の手を掴み、引きずる様にその場を後にしていた。
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