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episode.5-20
階下には御坂が居た。
用は終えたのか、ポケットに手を入れて玄関口の作業風景を眺めている。
次第に幾つもヘリが降って湧き、解放されたエントランスを埋め尽くす。
土煙を巻き上げ着陸する光景へ、館の主は何が何だか分からず慌てふためいていた。
「…迎えか?」
「いや、アレは遺体処理業者。僕はゆっくり車で帰るよ」
景色も良いし。
呟き、ふらりと地面から脚を離した。
淡白な言動に違和感を抱く。
眉を潜めるや、彼は振り向きざま見慣れた笑みを寄越していた。
「じゃあ遥に宜しく、君達もまた遊びにおいでよ」
「御坂」
去ろうとする所長を呼び止める。
「お前、墓参りは?」
「…ああ」
何がああ、だ。
「また今度にするよ」
肩を竦める。
恐らくもう二度と、来る予定なんてない。
それだけ残すや、御坂はもう取り付く島もなく遠ざかる。
足取りも早く、目を凝らす頃にはヘリの影へ綺麗に姿を消していた。
本当に好きになれない人種だ。
図るに雇用主と同じ、万人の頭上を悠長に飛び、気紛れに舞い降りて全てを掻っ攫う鷹に同じ。
「隊長、御坂先生何してたの」
黙って大人しくしていた部下が手を引っ張った。
「さあな」
「帰る?」
「病院に行く」
使命を思い出した側近が車の鍵を手に、ようやっと2人を追い掛けて来た。
「…ごはんは?」
未だしつこく唇を尖らせた部下を、寝屋川はまじまじと観察する。
そうして徐に指で額を弾くと、相手は大仰なリアクションで殊更に機嫌を悪くした。
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