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episode.6-3
「ねえ戸和、戸…」
「何」
ドアを潜る。
誰も居ない部屋の冷気が肌を刺す。
「あ、」
冷たい寝具に降ろされた。
カーテンの引かれた空間は暗い。
その纏わり付く様な暗がりの中で、瞳だけが怪しく光る。
此処には2人。
音を紡ぐ主体は、相手と自分。
「…っ」
圧しかかる身体に唇を引き結ぶ。
どうしよう。どうしたらいい。
君が触れるだけで、気が変になりそうなのに。
する事は痛い。怖い。
バイオレンスの一環にすら思える。
叩き込まれた価値観による阻害と、ただそれだけじゃない。
好意を抱いて、身を焦がした相手に撫ぜられる感覚なんて知らない。
天井を背景に、視界が彼で満たされる。
真っ直ぐな視線を受けるだけで。見詰められるだけで。
本当に、呼吸さえ潰れてしまう。
「沙南」
世界が止まった。
「こっち見て」
唇が塞がれた。
柔らかく、押し当てる物が何度も。
「…あ、ふ」
どうしてこの部屋には音が無いのだろう。
暗くて、視線を逃がす先すら無いのだろう。
「や、やめて」
覆い被さる相手の腕を掴んだ。
妨害にもならない反抗だった。
「やだ」
「何がそんなにやなの」
「っ怖い…」
「俺が?」
背けていた視線を、窺う様に上げた。
一寸も逸らさず見ている目があった。
だって行為をしようとしているんだ。他ならぬ君が。
初めて好きだと自覚して、激動の日々があって、何がどうなって手を繋いでキスをする関係を築いて。
今から、服を脱いで。
それから。
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