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episode.6-6
「ま…まだや、やめたくない」
「何?どういう…」
泣くばかりで話にならない。
青年は嘆息し、致し方なく身を起して相手を抱き上げた。
「沙南」
膝に抱えて宥める。
小さい身体だ。それが怯えて震えているのが、愛おしく可哀想になる。
そうして今日も最終、べそを掻く姿に甘くなる。
「どうしたの」
「……」
鼻を啜った。
解放された事で大人しくなり、萱島は親に叱られた如く打ち萎れていた。
先週と何ら変わらない、ともすれば再来の様な光景を前に呆れる。
濡れた頬を拭って、軽く引っ張ると小さく悲鳴をあげた。
「と、戸和くん…は」
やっと話し出す。
上擦った声が、たどたどしく言葉を繋いだ。
「わかって、ない」
「…何を?」
「だから」
乱暴に袖口で目を拭う。
「俺は、ほんとに、好きで…」
どんな言い訳を吐くかと思えば。
意表を突かれる相手を余所に、尚も拙く萱島は続けた。
「好きで、今も、大変なのにそんな」
性懲りも無く落涙する。真っ赤な目を見詰めた。
「そんな、したらもう…お前の事以外、か、考えられなくなる…」
「……」
泣くほど追い詰められいっぱいいっぱいになったその告白に。
よもや、此方が思考を吸い取られてしまった。
「自分で何言ってるか分かってます?」
「わかんないよ…」
視覚で悟れるほど、此方の事で追い込まれて泣いている。
目前に落ち込む生き物が、こんなにも愛おしく可愛い。
戸和は俯く顎を掬い上げた。
驚いて逃げようとする前に、柔らかく濡れた唇を塞いで捕まえた。
「ん、」
「仕事なんてしなくて良いですよ」
感情の跡をなぞった。
また柔らかく抱き寄せてやれば、腕に収まるそれが困惑から少し身動いだ。
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