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episode.6-7
「え、や…それ何の為に…」
「だから俺の為に」
毫も躊躇いなく言う。
さっと赤みが差した頬を包み、退路を断って見詰めた。
「……」
「他なんて考えなくて良いから」
「、ん」
お次は耳朶を食まれた。
唇の感触がひっつく。
じんと患部が焼ける。
宙を睨み、毒の如く全身に及ぶ熱にただ震える。
ふ、と耳に吐息が掛かった。
僅かな刺激にすら耐え難く、一杯にシャツを握り締めていた。
「っ…は、離」
「いつまで抵抗してる気ですか」
「ち、ちがう…ばか、用事」
「用事?何の」
「…引っ越しの準備とか…ある…!」
きっと真っ赤な顔を上げた萱島がねめつけた。
はて。
存外にきちんとやって来た返事に、青年は自ら話を掘り下げる。
「何、やっと自立する気になったんですか?」
「そう…だよ、いい加減考える言うたやんか」
「良いことだ。まったくいつまで社長にべたべたしているのかと…」
「だからもう帰る」
鼻を啜り、先よりも幾分か平静な面をした萱島は、憮然と相手を押し退けようとする。
釈然としない。
然れど、確かに急を要する件ではある。
何となしに柔らかい頬を抓った。
怯んだ相手は黙って息を詰まらせた。
「そもそも家なんて借りずとも、うちに来れば良い物を」
当然の事を述べたつもりが、大きな目は瞬きもせず固まった。
一体何を言われたのか。全く解せない様相だ。
「え?」
「一緒に住めと言ったんです」
「…え?」
「聞こえてるでしょう」
「あ痛っ…あ、はい…」
聞こえてはいますが。
萱島は口を尖らせ、即断で拒否を示した。
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