124 / 203

episode.6-11

こんな顔をするのだ。 痴態を目の当たりにして、青年の両眼がきゅっと狭まった。 見るのは自分だけで良い。 導けるのは、そう出来るのは。自分だけで。 肌が熱い。 視界で上下する胸が。 今になって薄暗い、不明瞭な視界を恨んだ。 恥じらいと快楽の狭間で惑う表情を、暴いた身体をもっと余す所なく、確認してやりたかった。 「や、う…」 頭がふらふらする。 酸素が足りない。 圧しかかる彼の手が、形を辿る様に上体を撫でる。 たったそれだけで蕩ける。 ほんの少し触れただけなのだ。 それがもう、気持ち良くて堪らない。 耐え難くて身を捩る様を、彼は一寸も視線を逸らさず見ていた。 息も出来ない程。只管。 恥ずかしくて逃げ場もなく、頭が変になりそうだった。 「っや、やだ…」 「ん?」 下肢に手を掛けた矢先、また露骨に嫌がった。 「何」 「い、痛いのやだ」 此方の腕に取り縋る。 怯える謂れを悟り、戸和の声が努めて甘くなった。 「…痛くないよ」 尚身体を引き剥がそうとする。 そう言えば始めから、ずっと泣いている子供を抱き寄せた。 「痛かったらもうしない」 「……」 すん、と鼻を啜る音が響いた。 前の男によっぽど酷くされたのだ。 残された何もかもを払拭してやりたかった。 「貴方を傷付ける事はしない」 当初自宅前で、年甲斐も無く縋った時から感じていた。 この青年は何て優しい声を出すのだろう。 温かい。愛しい。 じんと身体の芯が火照る。 「こっち向いて」 大きな瞳が上を見た。 直ぐにキスが降って来た。 肩を寄せられて、閉じ込められて、まるで慈しみを体現したかの様な口付けが何度も。 舌が焼ける甘さに首を竦めたくなる。

ともだちにシェアしよう!