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episode.6-11
こんな顔をするのだ。
痴態を目の当たりにして、青年の両眼がきゅっと狭まった。
見るのは自分だけで良い。
導けるのは、そう出来るのは。自分だけで。
肌が熱い。
視界で上下する胸が。
今になって薄暗い、不明瞭な視界を恨んだ。
恥じらいと快楽の狭間で惑う表情を、暴いた身体をもっと余す所なく、確認してやりたかった。
「や、う…」
頭がふらふらする。
酸素が足りない。
圧しかかる彼の手が、形を辿る様に上体を撫でる。
たったそれだけで蕩ける。
ほんの少し触れただけなのだ。
それがもう、気持ち良くて堪らない。
耐え難くて身を捩る様を、彼は一寸も視線を逸らさず見ていた。
息も出来ない程。只管。
恥ずかしくて逃げ場もなく、頭が変になりそうだった。
「っや、やだ…」
「ん?」
下肢に手を掛けた矢先、また露骨に嫌がった。
「何」
「い、痛いのやだ」
此方の腕に取り縋る。
怯える謂れを悟り、戸和の声が努めて甘くなった。
「…痛くないよ」
尚身体を引き剥がそうとする。
そう言えば始めから、ずっと泣いている子供を抱き寄せた。
「痛かったらもうしない」
「……」
すん、と鼻を啜る音が響いた。
前の男によっぽど酷くされたのだ。
残された何もかもを払拭してやりたかった。
「貴方を傷付ける事はしない」
当初自宅前で、年甲斐も無く縋った時から感じていた。
この青年は何て優しい声を出すのだろう。
温かい。愛しい。
じんと身体の芯が火照る。
「こっち向いて」
大きな瞳が上を見た。
直ぐにキスが降って来た。
肩を寄せられて、閉じ込められて、まるで慈しみを体現したかの様な口付けが何度も。
舌が焼ける甘さに首を竦めたくなる。
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