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episode.6-14
含羞をこじ開けた舌が、一握り残っていた余白を全て奪い取る。
「はっ、ぁ」
何も無い。毛頭ない。
全て躊躇いも挟まず、貴方にかっ攫われた。
今の自分には、眼前の君しかない。
「沙南」
「あっ…ぅ」
圧迫感が身を裂いた。
痛みじゃない。けれど耐えられない。
熱を纏う、成す術のない恐怖だ。
入って来る。
そして己の中枢まで侵食する。
喉を引き攣らせ、喘鳴しながら、激流から逃れる様に相手の身体にしがみ付いた。
「1回深呼吸して」
「…っ、ふ」
唇を舐め取られた。
くっつけた額から、また汗が下った。
「できないの」
思考はとっくに熱で溶けたのだ。
鼓膜は彼の声を拾っても、既に言語として理解はしなかった。
辛い、血液が沸騰する。
繋がった箇所から猛毒が溢れ出して全身を犯し、視界すら滲んで眩んでいる。
「…い、ず」
どうしてだろう。
突然、口を突いてその名が出た。
殆ど零距離で見据えていた双眼が、僅か細まった気がした。
「いず、…っみ」
抱き寄せた彼の上体が覆い被さる。
更に深くまで達し、消え入りそうな悲鳴が漏れた。
「っひ、ぁ…あ、う」
「可哀想に」
吐息に近かった。
止め処なく落ちる涙を拭った後、戦慄く背を撫で上げた。
「やめて欲しいか」
何処から紡がれたのか。舌が焼けるほど甘い響きに、焦点は定まらないまま、悄然と圧しかかる輪郭を見ていた。
助けてくれるのだろうか。今日も。
絶壁から転がりそうな自分を、結局優しく引き上げてくれる。何時だって。
「っふあ…ぁ!」
ぐっと腰が限界まで押し付けられた。
己の未知まで貫かれ、意識が飛びかけた。
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