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episode.6-16
何十回目の行為だがどうして、一度として血液が逆流しそうな窮地が、鼓動さえ苦しい没頭があっただろうか。
これまでがまやかしなら。
なら今目前に居る君は何だ。
「ひ…いず、ああっ、」
水の張った瞳が歪んだ。
答えは真理かもしれない。
益体な概念を崩し、新世界を晴らす。
「め、ぁ、やあ…っ」
「沙南」
「…っ!」
「何処見てる」
瀬戸際で逃げる顎を掴まえた。
ぐしゃぐしゃに濡れた顔が張り詰めた。
こくんと息を飲み下す。
衝撃に落ちた雫を掬い、それを見詰めた。
「こっちだろ」
声を潜め覗き込む。
視覚に取れるほど肩口が震える。
自分しか介入出来ない君を。
君の言動の根源を、すべて一所に縫い止める自分を。
「ふっ、」
取り上せ浮かされた瞳が泳いだ。
下唇を噛み、隙間から簡単に空気に溶けそうな、ほんの些細な音が零れた。
「は、ぁ…っ」
細い眉根が寄る。総身が痙攣する。
青年は腕の中で彼がすべてを投げ出す瞬間を、瞬きもせず追っていた。
何度か精を放った後、細い身体はがくんと虚脱してシーツに沈んだ。
「ぁ、…ぅ」
随分あっさりと達した。様に見えた。
胸だけが小刻みに揺れる。生命維持に開きっ放しの唇の端から唾液が伝う。
「……」
焦点は何の手も掴まず、瞳はただの硝子になった。
朦朧とした頬をなぞって悟る。
声を紡ぐ余裕すら無かったのだ。
毛ほどの力も入らず、ぐったりと人形みたくベッドに崩れる身体を撫でた。
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