130 / 203

episode.6-17

「…もっとおいで」 休ませる間も無く、蕩けた上体を抱き上げた。 肌が焼ける様に熱い。 されるが儘の傀儡を膝に降ろす。 下半身は未だ溶けて繋がっている。 体勢の変化に深まり、淫猥な音を立てた。 「っぁ…」 「俺だけ見てればいいよ」 揺う。少し陰る。 俯く頬を支え撫ぜる。 ほつれた髪を退け、なお愛らしい顔を覗く。 額を繋ぐ。肌を重ねる。呼吸を感じる。 暗い部屋に浮かぶ。唯一のお互い。 「俺だけで良い」 指先を、唇を、胸をひとつにする。 理性を失った筈の相手が、きゅっと切なげに眉を寄せた。 只管に零れ始めた。 きらきらと灯りのない部屋でも輝く、透明な感情が。 「…また泣く」 呟いて図らず、笑みが漏れた。 震える身体が子供に等しく縋り付いた。 その仕草が飾らない程、滑稽なほど。 信じ難いくらい満たされ穏やかになるのを、君はきっと知らない。 時間が沈めど、僅かに光度を落としただけだった。 他を撥ね退けた2人の世界だった。 徐々に熱と密度を増す。 この空間を多分、一生忘れない。 建前を捨てた身体を抱き寄せ、閉じ込める様に濡れた唇を塞いだ。 「あの、引っ越しの…そう、準備がですね。進んでなくて…」 たどたどしい日本語が続く。 早朝から1人テーブルに寄っ掛かり、キッチンで萱島は雇用主に弁明をしていた。 「うん、まあ今月中には…はい」 咳払いをした。 乾燥している気がする。少々喉が痛い。 おまけに立っているのが辛い。身体が怠いのだ。 風邪だろうかまったく。 至る所に残された鬱血は見て見ぬふりをして、自分から欺こうと無駄な努力に勤しんでいた。 「はぁい、はい…じゃあまた」 通話を切る。何故か溜め息が出た。 「…怠いよう」 ずるずるしゃがみ込みテーブルに伏せる。 もう惰性が許されるのなら、欠勤したい。 ただ其処まで大変な訳でもなかったのだ。身体の方は。

ともだちにシェアしよう!