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episode.6-17
「…もっとおいで」
休ませる間も無く、蕩けた上体を抱き上げた。
肌が焼ける様に熱い。
されるが儘の傀儡を膝に降ろす。
下半身は未だ溶けて繋がっている。
体勢の変化に深まり、淫猥な音を立てた。
「っぁ…」
「俺だけ見てればいいよ」
揺う。少し陰る。
俯く頬を支え撫ぜる。
ほつれた髪を退け、なお愛らしい顔を覗く。
額を繋ぐ。肌を重ねる。呼吸を感じる。
暗い部屋に浮かぶ。唯一のお互い。
「俺だけで良い」
指先を、唇を、胸をひとつにする。
理性を失った筈の相手が、きゅっと切なげに眉を寄せた。
只管に零れ始めた。
きらきらと灯りのない部屋でも輝く、透明な感情が。
「…また泣く」
呟いて図らず、笑みが漏れた。
震える身体が子供に等しく縋り付いた。
その仕草が飾らない程、滑稽なほど。
信じ難いくらい満たされ穏やかになるのを、君はきっと知らない。
時間が沈めど、僅かに光度を落としただけだった。
他を撥ね退けた2人の世界だった。
徐々に熱と密度を増す。
この空間を多分、一生忘れない。
建前を捨てた身体を抱き寄せ、閉じ込める様に濡れた唇を塞いだ。
「あの、引っ越しの…そう、準備がですね。進んでなくて…」
たどたどしい日本語が続く。
早朝から1人テーブルに寄っ掛かり、キッチンで萱島は雇用主に弁明をしていた。
「うん、まあ今月中には…はい」
咳払いをした。
乾燥している気がする。少々喉が痛い。
おまけに立っているのが辛い。身体が怠いのだ。
風邪だろうかまったく。
至る所に残された鬱血は見て見ぬふりをして、自分から欺こうと無駄な努力に勤しんでいた。
「はぁい、はい…じゃあまた」
通話を切る。何故か溜め息が出た。
「…怠いよう」
ずるずるしゃがみ込みテーブルに伏せる。
もう惰性が許されるのなら、欠勤したい。
ただ其処まで大変な訳でもなかったのだ。身体の方は。
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