134 / 203
extra.4-2
「しゃちょう」
「お前もう直ぐ出て行くんだから、いい加減俺離れしろよ」
「…出て行きたくないよう」
「なら家に居ろって言ったろ」
「自立しなきゃと思ったんです」
「じゃあ自立しなさい」
素直に返すならもっと早々に家を出ていた。
「……くそったれ」
「何だてめえ」
口調だけで怒りもしない。
元より興味がないのだから当然だ。
萱島は唇を尖らせ、益々相手にしがみ付いた。
「社長、何で筋肉付いてんの」
「さあ」
「腹筋割れてる?」
「セクハラはやめろ」
手を軽く叩かれた。
見上げた顔には、あからさまに「面倒臭い」と書かれていた。
「良いから和泉に構って貰え、彼氏だろ」
「そん…俺が麻雀があるから、競馬は良いやってなる人間とお思いか!」
「どんな例えだ」
「絶対メール弾かれてる…いつも全然社長から返事が返ってこない…」
「だって沙南ちゃん頭悪いメールしか送って来ないんだもん」
「…誰が中卒ですって?」
「言ってないだろ」
頭悪いメールだと。萱島は奥歯を噛み締めた。
確かに取り敢えず構って欲しさに、端から食べた物を送ってみたりはしたが。
しかし一通返そうものなら調子に乗るのだから、神崎の対処は頗る正しかった。
「もう部屋にお戻り。今日休みなんだから」
「絶対嫌だちくしょう」
「…この駄々っ子め」
不意に身体が浮いた。
あ、と思ったら持ち上げられていた。
完全に子供に対する扱いだ。
ネクタイを引っ張って不機嫌を露わにするも、相手は些か眉を潜めるだけに終わった。
「やめろ、セクハラだ…!」
「うわあ。今一瞬、お前を窓から放り投げたくなったわ」
「え…怒った?」
ぴたりと萱島の抵抗がやんだ。
「……」
無言でさっさと廊下を過ぎ、目的の部屋へ入る。
エアコンも沈黙しており、冷たい静寂が広がっていた。
ベッドに降ろされるやくしゃみが出た。
今思えば単に寒さに起きたのかもしれない。
ともだちにシェアしよう!