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extra.4-3

「沙南、空調のリモコン何処やった?」 捜索の傍ら、早々に布団を被せられた。 「あと手離せ」 「…離したらどっか行く」 「分かった寝るまでは居てやる」 意表を突かれ、思わずネクタイを引っ張る力が失せた。 なんだ。今日は優しい。 出て行く手前の情けにしても、これまでなら即行で流されていた。 「あ、しまった」 然れど暖房をつけた辺りで神崎が固まった。 きょとんと寝転がったまま見上げる。 「駄目だ。寝る」 「え」 どういう事だ。珍妙な物を見る表情で、ベッドの縁に掛けた相手を凝視した。 「俺が眠い」 「社長、眠くなるんですか」 反芻してみれば妙な質問だった。 人どころか、そもそも生物と捉えていなかったのが露呈した。 呆気に取られる此方を振り向く。 見詰めるアイスグレーの瞳に、萱島は無意味に身を竦める。 「…な、何」 「お前、ちょっとそっち詰めて」 「ええ?」 仰天する間に気配が間近にあった。 布団の中、勝手に別個の体温が上がり込んだ。 「おやすみ」 そう告げるや、まるで自室の如く身を投げ寝てしまった。最早此方など完全に放ったらかしだった。 「…社長」 何が何やらだ。 上体を起こし、隣の存在をまじまじと覗き込んだ。 もう反応すら無く沈黙していたが。 「神崎社長?」 1分と経ってない。 恐々手を伸ばし、常は先ず届かない頬を軽く抓るも綺麗に無反応だった。 調査隊の某上司より器用に寝れる男が此方に居た。 (疲れてたのか) 眉が寄る。流石に少々は罪悪感が湧く。 本当に億尾にも出さないから悟れもしなかった。 ならばいつも結構、疲れているのかもしれない。 (…人間だった) なかなか失礼な感想を抱いて瞬いた。 そうしてやっと寝る事を決め、萱島は再びベッドに沈んだ。 物珍しい事態に出会したものの、不思議と次第に睡魔が迫って来ていた。 こんな光景は多分、後にも先にも二度と見ないだろう。 暖を取る目的半分、その他半分。 隣の存在に腕を回し身を寄せ、漸く大きな子供は自らの視界を消した。 (未だ社長離れは遠い)

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