139 / 203
episode.7-4
「ちゃんとバランス考えて三食食べろよ、外食ばっかしてないで」
「…はい」
「戸締まりしっかりして、変なセールスは無視しろ」
「……」
結局此方が心配される。
離れた相手を恨みがましく見た。
何処か恬然とした様だった。以前より気の所為か曇りの晴れた表情に、萱島はようやっと力を抜いた。
彼の車は静かに去って行った。
ぼうっと上着に手を入れたまま立ち尽くした。呆けている暇なんて無かったが。
(そもそも社長が考えなしにぶん投げるから…)
其処で雇用主の顔を思い出した。
結局挨拶も出来なかった。
財布の中には勿論、彼の名義にくっつけたカードが入っていた。
「…駄目だ、さっさと片付けよう」
この寒い中何時までも考え込んでいそうだ。
一重に逡巡しようが仕方の無いことだった。
肩を竦め踵を返し、不慣れなエントランスの鍵を解除にかかる。
(ご飯が無い)
当たり前だ。
もう冷蔵庫を開けてチンするだけの日々は終わったのだ。
何も副社長の負担を増やしていたのは、社長だけではなかった。
無言で自省しつつ今日の計画を練る。
数時間もすれば宅配のラッシュで、考える隙間もなくなった。
すっからだった新居が見る間に埋まった。
対応していただけだがもう疲れた。
というより、何故だか心が荒んだ。
「…音が無い」
先から無いものばかり口に出る。
一人暮らしとはもう少し、気楽な筈だったのに。
ふと窓の外が目に入った。
此処の更に奥の住宅街へ進むと、一際高いタワーマンションが聳えていた。
(よう和泉)
窓枠に肘を突き、萱島にとっては絶景を眺める。
態々東十条近辺で探した目的はそれだったから。
ともだちにシェアしよう!