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episode.7-10

休日に会社に来ると妙な心象になる。 自分が不在の間にも、何ら障害無く日は落ちて昇るのだ。 寂しいようなそわそわするような。 今日は元より人が少なく、メインルームに脚を伸ばしても振り向いたのは数人だった。 「間宮ちゃん」 「げっ」 もう良いどうせそんな反応だろうと思った。 萱島は憮然と唇を噛んだ。 「今日はお菓子はありません、さようなら」 「いらねえよばーか。戸和くんは?」 「下じゃないですか多分」 手で追い払われた。この野郎。 自分の管理下に居場所がないとはどういう事だ。 「…ムカつく」 何だそのシャツの柄。何処で服買ってんだ。 背中に罵倒を投げ付けようが、無論もう構ってくれない。 忙しい訳では無いのだ。恐らく。ムカつく。 腑に落ちないまま、ただ邪魔するのも憚られ、萱島は仕方なく部屋を後にした。 (なんか悲しくなってきた) 仕事を手放せば結局、何も残らないのではないか。 家に帰ってもひとりで、昔の場所に戻ってもひとりで、実のところ人生なんてそんな物かもしれないが。 「あ」 鬱憤に落ちていた視線が上がる。 いつもの彼が階段を伝って来るのが見えた。 「……」 「萱島さん?」 半ばで速度を落とした青年が、つっかえる上司を怪訝な顔で覗いていた。 ぶれない姿に不必要な蟠りがほどけた。 「引っ越し大丈夫でした?」 「うんまあ、大体」 蓋を開ければどうしたって、引き上げてくれるのは君だ。 今更ながら何故あの時花を買って来てくれたのか、折を見て聞きたい。 「忙しい?」 「いいえ、珍しいですね貴方が…」 部下の言葉が切れる。 萱島が腕を掴んで身を寄せた。 人が居ないとはいえ職場だ。そもそも普段も躊躇が前に出て、そんな事を余りしない。 「…どうしたの」 声が露骨に優しくなった。そのたった一言で、不具合がぜんぶ晴れてしまった。

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