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episode.7-13
むにっ。
「……」
首を傾けて静観していた彼に、下唇を押された。
反射的に声が引っ込む。
じいと見詰める瞳に鼻白む。
怒気、は仕舞われたのかもしれなかった。居心地は悪いが。
「そんなに必死になって、何をして欲しいって?」
今までの流れは何処へやったんだ。金縛りみたく接着された上司の口元を、尚更むにむにと弄った。
「主語をどうぞ、主語を」
「………だから…せ、」
押し黙る。
「はい?」
困り果てた眉尻が垂れた。
中学生か。年端のいかない人間を苛めている気分になり、致方なく追撃を引っ込めた。
唇に触れていた指を滑らせ、首筋を下り、耳を擽る。
肌を撫でられ腕の中の存在が身動ぐ。
益々頬が染まる。少しの動作で目を見張る効果があった。
「大体俺は勤務中ですが」
「…知ってる」
「仕事は放ったらかせと?」
「責任は俺に来るから良いんじゃない」
伏せ目で言い辛そうに、慣れない誘い文句を懸命に探している。
やけに直向な子供の耳から手を這わせ、細い髪の隙間をくぐった。
髪を梳かれただけでするする解れてしまった。
シャツへ額を押し付け、熱っぽい息を堪え、すっかり駄目になる容易さが危なかった。
「仕方ない人だ」
いろんな事に呆れた。
だが不思議と嫌いでなかった。不思議と。
予告も挟まず抱き上げ、驚いている間に早々とベッドに転がした。
抵抗は無い。手も足も出せず、叱る親を伺う様に見上げている。
文句を言わない代わりに、何も言えないらしかった。
「腕くらい回したら」
借りてきた猫に苦言を呈す。
きゅっと唇を噛んだ姿が、怖ず怖ず手を伸ばした。
聞いてはみたものの虐めたかっただけで。
結局それ以上に優先する事など在りはしなかった。
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