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episode.7-16

仕草は優しいのに、途方も無く怖い。 合わさった中心から蕩けて、すべてが解け落ちそうになる。 「ん、っぅ」 背中から体ごと掬われる。 掌が熱い。 「…は、ぁ」 呼気を奪う様なキスが続いた。 何度も角度を変え、噛み付く。 朦朧とした思考が寸断される。 息が。 苦しくとも、甘さを多分に乗っけた舌の動きが気持ちよくて堪らない。 口内の造りをなぞり、やわりと肉を押し、痺れを延髄まできたして脳を襲う。 (いき、いきが) できない。 溺れて必死にシャツを握る。 それで助けを求めたのに、無慈悲にあしらわれて出入口を塞がれた。 「あ…っ、」 容易い身体が震える。 一分も残さず火照り、解けて力を失くした。 崩れる肢体はそのまま易々とシーツに沈められた。 涙を湛え、只管に酸素を求めるだけの姿が空を見上げた。 照明を遮る。 逆光で見下ろす彼の瞳が浮かぶ。 心臓が砕け散りそうになった。 懸命に呼吸を紡ぐ其処へ、その指先が愛おしむ様に触れた。 「いず…」 哀しい訳じゃない。決してそんな訳じゃない。 なのにどうしてか、切なく込み上げるものに胸を詰まらせて、迷子に等しくその名を呼んだ。 「いずみ」 見据える目がまた色を変える。 ぼろぼろと涙を零す姿を、獰猛に。然れど偽りなく優しく。 頬を撫でる動きを添えて、明確に追い続けていた。 「っいずみ…」 「どうしたの」 「…仕事戻んないで」 しゃくり上げ身を寄せる。 泣き付く子供に図らず眉を寄せた。 流石に何時までも放っぽり出せる立場じゃない。 遂にこの青年に対しても、萱島の甘えが憚りなく漏れ始めた。 「お前は本当に…」 呆れが五分を跨いだ。 相手にじゃない。 無論その他一切をどうでも良いと片してしまう、毒された己に対してだった。

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