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episode.7-18
「千葉は分かるだろ、アレがああなってるって分かるだろ」
「…んー」
「おい自宅警備員、代名詞で会話が成り立つと思ったら大間違いだぞ」
果たしてはっきり口にして良いものか。
真実を告げれば、可哀想な同僚は砕けて風に飛んで行く気がした。
律儀に悩む牧を他所に、千葉は至って投げやりな台詞を寄越した。
「まあ良いんじゃね、生きてりゃその内楽しい事あるよ」
「何だその雑なまとめ…」
欠片も理解していない面で憮然としている。
牧は心の中で合掌しつつ、もう良いかと連中を席に戻そうとしたところ。
「牧だ!」
相応しくない成長期前の声が遮った。
首を回すと子供が駆けて来た。
「おう渉…」
「なあなあ、沙南と戸和がな、さっき廊下でチューしてた!」
牧と千葉がずっこけた。
あのバカップルめ。少しは人目を憚れ。
輝く瞳で少年は喜々と残酷な現実をぶち撒ける。
ぎぎぎ。勿体ぶった動きで牧は背後を振り返った。
案の定、間宮班長が灰になっていた。
「…渉不味い!猫の餌やり忘れてた!」
「あー」
横から少年を掻っ攫い、千葉が早々に現場からフェードアウトした。
音速で走り去る。その後姿を見送った後、ようやっと牧は衝撃に消し炭となった同僚へ声を掛けた。
「孝司くん…?」
手元から紙束がばらばら舞い落ちる。
「孝司くん、明日有給取る?」
一体どうしろと言うのか。
その場で手を束ねる。
反応の無い孝司くんを前に、牧は途方に暮れて暗い天井を仰いでいた。
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