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extra.5-2
「不味い?」
「まずくない…からい」
「ごめん配分間違えた」
態とらしく謝罪を乗っけてみた。
すると悲しいかな、萱島はもう何も言えずもくもくと劇物を消化し始めた。
可哀想に。ねじ曲がった雇用主ですら疑う事を知らない相手は、泣きながらパスタを食べている。
(ウケる)
俯瞰で眺めながら神崎は内心爆笑していた。要はクソ野郎だった。
間を割って玄関のドアが開いた。
出張から帰還した本郷が廊下を過ぎ、現場に脚を踏み入れた。
「お帰り」
壁に凭れて携帯を弄る男が寄越す。
本郷は視線を脇へと移した。
何故かキッチンのテープルでは、べそべそと目を擦りながら部下がパスタを突いていた。
「…この野郎。また萱島を虐めたな」
「何が」
「本当に1回刺すぞてめえ」
歩み寄り隣の椅子を引く。
やっと手を止めた萱島からフォークを取り上げ、一口皿の中身を検証した。
「…」
無言で器ごと奪い、遠ざけた。
手持ち無沙汰になった部下が目を瞬いている。
ぼとぼとになった目元を拭いてやり、序でに労る様に頭を撫でた。
「萱島、ケーキ食べるか」
「……?」
「お前の為に買ってきたから」
机上に白い箱が現れた。
当たり前に高い店だ。確か数日前にも土産を貰い、チーズケーキに感動して絶賛した記憶があった。
それで態々忙しい中寄って来たのか。
萱島は鼻を啜り、相応の礼が思い浮かばず眉尻を下げた。
「全くあそこの人格破綻者はロクな事しねえからな、今度2人で毒盛ってやろうぜ」
「気にするなよちょっと茶目っ気出しただけだろ」
「…ほんと死ねよお前。其処の国道で轢かれて来いよ」
またいつもの応酬が始まった。
この責任者2人は定期的に下らないやり取りをおっ始める。
当初こそ目を丸くしたが、いい加減慣れっこになってきた。
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