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episode.8-2

「萱島」 名前を呼ばれて思考が弾けた。 虚を突かれて振り向く相手に、男は怪訝な色を湛えた。 「何を驚いてんだ、いきなり姿が見えなくなったもんだから心配したんだぜ」 頭の悪そうな面が顎を引く。 取るに足らない存在だった。 萱島は結局雀に向き直り、愛くるしい姿を眺めた。 「…てめえ」 嘗ての兄貴分は声を荒げた。 煩わしい。早く何処かに行け。 しかし短気な男だった。 シャッターを閉めた萱島に、米神を引き攣らせて懐を探った。 「いい加減こっち向けや!」 止める間もなかった。 乾いた音が空気を裂く。地面が抉れ、凍り付いた。 目を瞬いた。 泥の混じった砂の上、雀が絶命していた。 (殺…っ) 何が引き金だったのか。 体内を溶けた鉛の様な物が滑り落ちる。 筆舌に尽くし難い気持ちの悪さだった。 雀の目は開いたままだ。 一瞬で無機質になった硝子球が、何処でもない場所を映していた。 「そんなに鳥が好きならよお…今度美味い店でも連れてって…」 「おい何やさっきの銃声は!!」 パンっと障子が開け放たれた。 半ば転がり出た菱田が、得物をぶら下げた男に掴み掛かった。 「このクソ餓鬼…!何を稜樹さんの家でチャカ撃っとんねん!」 「まあまあ菱田さん落ち着いて下さいよ、違うんですよちょいと暴発しちゃいましてね」 「何の騒ぎだ菱田」 「鉄砲玉でも来たんか」 騒ぎが広がり始めた。 聞きつけた室内の人間が、ぞろぞろと一様に鴨居を潜って現れた。 ヤクザは割に小心が多い。 肥大した一件に男は肩を竦める。 萱島だけが1人、接着された様に庭の死骸を凝視していた。

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