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episode.8-13
「社長」
最初から無かった様に、人垣から捜した姿が消える。
イマジナリーフレンドを抱いた、所詮は此処まですべてが空想だったのか。
「置いてかないで」
歩道を伝う。身体が留まる。
萱島の背後から獣の如く闇が追い抜いて、空から人からあらゆる物へ喰らい付く。
星も飲み込まれ先を失う。
大気が質量を帯びて、上から圧し掛からんばかりに四肢を広げ、世界の端から端を固めた。
果たしてこれが普遍に訪れる夜なのか。
陽が沈み、吹き出す闇はこんなに絶望的だったろうか。
「……」
眉を寄せ仰ぐ萱島を、ぞっとする程の冷気が包んだ。
外套の襟を寄せ、吹き荒ぶ寒波に耐える。
「…うるさいなあ」
覗き込む影が何か言った気がして、不快に苦虫を噛み潰した。
「分かってるよ」
ゆっくり地面から脚が剥がれ、覚束ない姿がやっと動いた。
記憶だけを頼りに、境目の無い道を辿る。
会社の場所を未だ覚えていて良かった。
何だか端から、崩れていく気がした。
神崎にも置いて行かれ、萱島はさっさと会社へ戻るべく脚を急く。
どんどん独りになって、世界が暗くなろうが仕方無い。
遡ろうが大凡、ロクな生き方をして来なかったのだから。
カリッ、カリッ。
ボールペンの先を、爪が引っ掻く。
先程こびり付いていた血は、綺麗に落とされて無い。
会社に戻り、何時もの席に着き。
背凭れに身を預け空を仰ぐ。
此処が切り開いた居場所だと思った。
やっと見付けた新世界だと感じていた。
その主軸として関係を結んだ、温かい青年のことを考えていた。
隣の空席を見詰めていた矢先、待ち侘びた彼が現れる。
(…和泉)
いつもの姿を認め、張り詰めていた身体がするりと解れた。
また温められたくて、萱島は立ち上がり溌剌に声を掛けようとする。
ところが違和感を前に、開きかけた口が寸で凍っていた。
見た事もない。
いっそ蒼白な程、呆然とした戸和が其処に佇んでいた。
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