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episode.8-18

*** ――きれいなのを見つけて もっと光っているやつ、何処かにあるから 泥濘が脚を、人の手の様に引きずり込み、前に進むのでやっとで、道は遥か先に続いてるらしいのに。 ――遠くに行かなきゃないよ、ここじゃだめ 向こうの花はもっときれい 振り向いたら幼い自分が要領を得ない事を、勝手に叫んでいる。 そんなに言われたって余りにも杜撰な道で、道とも呼べない。 でもはっとして手近の花を摘む。 これだと思った先に、手中で瞬く間にドス黒く変色した。 ――そんなんじゃないよ 顔を覆う子供が遠くなる。 枯れた花が今度は土塊になって、仰天して眺めている。間に、萱島は広大な黒い地面の正体に合点がいった。 「…畑だ」 急いで背後を振り向いた。 何だかどんどん見窄らしくなって、少年が脚元から傷付いて崩れていった。 「此処に居ちゃ駄目だ…!」 踏み出した脚が泥の中へずぶずぶ沈む。 本物の人間の手が伸びて、足首から手首から掴んで持って行こうとした。 真っ白な子供の手。 首まで沈んだ所で酸素が断たれ、夢の中に関わらず息苦しさに藻掻いていた。 ――1人だけ残りやがって! 正視できない光景を知った、土の中で何人も、幼い子供が泣き叫んでいる泥梨(ないり)。 ――こっちは息なんてずっと出来ないのに、暗いのに、どうしてお前だけ! お前だけ 飛び起きる。 シャツが張り付く程の汗を伴い、全身が呆れるほど痙攣している。 夢の余韻に引き摺られ、萱島は身体を抱き締めた。 (夢だ夢だ) 今は十数年後で、もう何でもない筈が、目覚めて尚現れた闇に怯えて塞ぎ込んだ。

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