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episode.8-19
(どうしてまた同じ所に居るんだ)
気持ち悪い程あの日にそっくりだった。
刺さる点滴の痛みと、消毒薬の匂いと、床が抜け崩れ落ちる様な不安と。
おまけに真っ暗で何も見えない中、本能から光を求めてベッドを這いずり出した。
「……え」
其処で気付いてしまった。
はっきりと浮かび上がる存在があった。
もう影でもない、目を剥いた人間が自分を凝視していた。
身動ぎもせず、合成みたく明確な輪郭を伴い、目前に立ちはだかって。
「、…あ」
あの家の殺人鬼が生き返った。
萱島は転がる様に光の漏れる出口へ走り、ノブを探し回る。
「あ、開かない」
必死に掴んだ持ち手を押してもどうにもならない。
知らぬ間に精神病棟へと移されていた萱島は、施錠された部屋に閉じ込められていた。
「開かない、何、何で」
ガタガタ扉が軋む音だけが響く。
崩れ落ちてドアを叩き続けた。
男は直ぐ背後に迫っていた。
「ぁ、開けて、開けてよ」
逃げ切れたつもりだった。
だけど本当は、未だあの家の中に居た。
遂に自分の番なのだ。
躍起になって叩いていた出口から手を離し、もう影でもない父親を見返した。
夢はどちらだったのか。
今までが全部、長くてもそうだったのかもしれない。
遂に静まり返った病室へ、次第に複数の足音が近づいて来た。
異常を察した病院のスタッフが漸く鍵を外し、やっとドアを開け放った。
「ーーどうかしましたか!」
視界が突然光で満たされる。
目潰しの如く容赦無い白に、萱島は一切を止めて吸い込まれる。
扉が開いた、向こうから誰かも知らない大人が覗き込んでいた。
眩む逆光が刺さった。矢庭に騒がしくなった。
全く似た光景を想起していた。
あの日霧谷が現れ、地獄の家から助け出された。
過去から現在までの一連の出来事が、萱島の中で完全にループしていた。
next >>final episode
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