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episode.9-2
神崎は期せぬ光景に出会した。
総合病院から連絡を受け自分の代わりに走ったかと思えば、同居人は当の患者と手を繋いで帰って来た。
問えば自宅に戻ると聞かないのを、無理に引っ張ってきたのだという。
確かにまた睡眠薬を流し込まれでもしたら困る。
こんな時であれ神崎は風馬牛だった。
否、風馬牛であったからこそ、今まで萱島の相手をしてこれたのだ。
(また死にそうな顔して)
本郷は真逆だ。
相手が沈めば沈むほど、感受性の高さから引き摺られていく。
1人平静な顔で珈琲を傾けたが、面倒な展開だと手を束ねた。
当の萱島は神崎を一瞥しただけに終わった。
日頃の様に追い掛けるでもなく、瞳が冷めて何も見ない。
初めて見る顔だ。
これまで持て余しぶつけこそすれ、いつも感情は持っていた。
それが無い。
「――で?和泉に連絡したのか?」
「いや」
部下を寝かせて戻るや、本郷はまるでトレースしたかの様な顔色で立っていた。
更に難儀な事がある。
本郷と萱島は、奇妙なほど共鳴し合う。
本郷は本郷で消したい過去があり、塞がらない傷が2人をどうしても引き付ける。
形而下には無い糸によって。
「今は連絡して欲しくないそうだ」
「まあ、そう言うだろうな」
そもそも本人に繋がるかも怪しい。
今日中には流石に仕事の進捗が気になって掛けてくるだろうが。
神崎とて現在、連絡は御坂を相手にしている。
「良いのか?病院から抜け出して。暫く見てないと何するか分からんぞ」
「受注をセーブしてるなら、俺が出来る限り家に帰る」
それが不味いんだ。
さしもの神崎も其処までは言えず、間が生まれた。
生憎自分は得意先の冠婚葬祭で出払う。
(どうしよう帰宅する前に心中してたら)
杞憂とは言い難い。
これと話しても無駄かと見切り、神崎は早々にダイニングを離れた。
壁を隔てた辺りで携帯を出し、目的へと繋げる。
『――ハイ』
いつ何時も変わらぬ声が応える。
「うちの部下は元気か」
『…寝てないよ、何処で急変するか分からない状態だ。目を開けたから呼んだけど意識は戻らないし、もしかするとこのまま終わるかもね』
医者という人種は素晴らしく淡々としている。
電話をしている所長の男は、殊更。
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