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episode.9-9
『君、まさか外に居るの?』
街の雑音が耳に入ったのか。
御坂の問いに肯定すると、一瞬で事情を解いた相手がトーンを下げた。
『そう…悪いことしたね。和泉君の方に掛けてごらん、多分直ぐ出るよ』
「…萱島が会いたがってない事まで話したのか?」
『いいや?』
あっさり否定を寄越した。
『急いでたみたいだし、そんなの言っても言わなくても同じじゃない』
コイツは本当に天網を掌握しているのでは。
間を置いて相手が寄越した言葉に、本郷はかねての仮説を肯定した。
『なあに?君…また難しい所で悩んでるの?ふふ、真面目だねえ本当』
「じゃあどうすりゃ良いんだよ」
『みんな我儘に行動してるんだから君もそうすれば良いじゃない。誰が正しいかなんて分かりゃしないんだから、好きにしたら』
あっけらかんと言い切る様に毒気を抜かれた。
良くも悪くもこういう男だ。序でに言えば誰かにそっくりだ。
心の内を読まれたのか、御坂は余計な台詞を寄越した。
『明日には遥も帰ってくるんだし』
「それはどうでも良い」
『…前から言おうと思ってたんだけど、君らの中学生みたいなスタンス何なの?いい加減にしなよ』
「放っとけよ」
『どうせ2人の時は喧嘩なんてしてないんでしょ』
煩わしい方向に話が流れた。
今はそんな場合じゃない。
『別に君たちからお目出度い報告が聞けても、こっちは何ら驚く事なんて――』
中途で思い切り電話を切った。
不可抗力ながら嫌いな人間と同じ事をしてしまったが。
さて、早々と次の番号を呼び出して回線を繋げる。
逆算してもう家には着いた筈だが、もう離れた後だろうか。
“誰が正しいかなんて分かりゃしないんだから”。
御坂の何気ない一言を反芻して、応答を待つ。
“好きにしたら”
萱島を助けたい。然れどそれだけじゃない。
優先するのは認めるが、救ってやりたいのは1人じゃない。
「――もしもし…今何処に居る?」
フロント硝子を見上げたら、幸い空は晴れ渡っていた。
夕暮れの気配を撒き散らしながら落ちる、太陽の威力に本郷はそっと目を眇めた。
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