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episode.9-10

所用で自宅に帰っていた牧は、億劫な足取りながら玄関をこじ開けた。 殺人的な西日が目に刺さる。 神使に出会した気分で立っていたら、階段を駆け上がる音が追って来た。 夕方に住人が出現するのは珍しい。 その上姿を見せたのは知った顔で、突発事態に固まった。 「…え、何、ちょっと待って、戸和、戸和くん」 しかも物凄い勢いで距離を詰めて来る。 此方の静止などお構いなしに迫り、胸倉を掴まれた。 何と言う事でしょう。家から出てものの数秒で地面から足が浮きかけている。 「お前、此処で何してる?」 「……何してるも何も衣食住で此処は俺の家です」 「はあ?」 仕事がごたついたとして、此処まで剣呑な顔を久方振りに見た。 襟を握られたまま、班長代表は哀しい目を明後日に逸らした。 「最近の俺を第三者が見てたら絶対可哀想だって言うよ」 「…何で主任の隣にお前の家がある?」 「違う被害者はこっちだ!俺が毎日楽しく暮らしてたら、ある日いきなり隣にUMAが引っ越して来たんだ!」 散々な言い様に毒気を抜かれ手を離す。 牧は襟元を直し、更に少々悪態を足した後、駆け付けた青年の思惑を辿り眉根を寄せた。 「何、萱島さん捜してんの?」 「ああ」 「うーん…でもこっちには多分帰って来とらんぜ。社長の家じゃないの」 そっちに居ないからこっちに来たんだ。 ともすれば都合悪く寝ていたのか。 説明を視線に乗っけた戸和に、相手は益々首を傾けた。 「と言うか一緒に居たと思ってたわ。俺てっきり揃って欠勤すっから、其処で一悶着あったのかと…」 言い草が土台の事情を把握した体で驚いた。 「知ってたのか」 「何を」 「付き合ってた事を」 「知ってたも何も、見たら分かるわ普通」 呆れて肩を落とす様は、いっそ件の責任者より年上然としている。 「大体お前、かなり初期だぞ。あの人が明らかにそういう意味で気にしてたん…」 当人も預かり知らぬ情報に、今度は青年が片眉を上げた。 言われてみればやけに絡まれはしたが。 素知らぬ振りで妙に聡い、何だかんだ立ち上げから会社を支えていた牧を見返した。

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