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episode.9-18
郊外を走り数刻、街路樹から突出した白い設備にはっとした。
見慣れたフェンスと並走し、戸惑いがちな萱島が運転手を伺う。
何度か訪れた建物だ。
大凡一般人の立ち入れない、この国の闇が圧縮された場所だった。
車を手前の公園に停め、2人は連れ立って正門へと歩き出した。果たしてこの前の様に入れるものか。
アポ無しで訪問しようものなら、身体検査だけで裕に1時間は要する。
『――IDをどうぞ』
エントランスの受付システムが作動した。
ゲストは貸出ナンバーを入力し、大枠の関門は通過出来る。
ところがこの日ゲートを開ける寸前、先手を切って中から警備員が詰め寄った。
「関係者なら通行証を提示して下さい」
「…患者の面会です。所長には話を通してある」
「本日午後7時以降は全棟会議のため、関係者以外は立ち入り禁止です。お引き取り下さい」
戸和の片眉が上がった。
どうも不味い空気になってきた。一騒動起きそうで、萱島はつい相手の袖口を引っ張る。
さてその気ならどう出るか。測っていた半ば、突如警備員が呻き声を発してつんのめる。
そのまま地面に頭を打った背後、蹴りつけた御坂が平然と見下ろしていた。
「…御坂先生」
「入って良いよ。頭が悪いから1時間前に言った事も覚えてない」
態々所長が入り口まで迎えに来た。
化物に出会した様に、警備員は唖然と己を蹴った男を凝視している。
「これ持って行って」
おまけに首に下げていた自分の社員証を放った。受け取った青年が礼を述べる。
何処ぞで狙撃手の彼が喚き、インカム越しに此方にまで文句が反響した。
相変わらず面倒な世界だ。
戸和に続き、開いたゲートをさっさと潜る。
何となしに背後を伺うと、所長が投げ捨てたインカムを撃ち抜くのが見えた。
彼の社員証は殆どマスターキーだった。
勝手知ったる顔で攻略し、さっさと奥へ向かう姿を追った。
会議は本当なのだろう。
職員にも遭遇せず、青っぽい蛍光灯がちらちら過ぎるだけだ。
エレベーターで最上階まで上ると様子が変わった。
このフロアは所長のテリトリーで、一層人の気配が薄れる。
萱島も流石に予想はついていた。
2人は最後のセキュリティを外し、隔離された私室へと踏み入れた。
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