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《elfyroid》が俺のマンションにやってきた①
※ ※ ※ ※
「え~っと……なになに――兄貴、相変わらず字が下手くそすぎ……読めねえよ」
糞でかい段ボールの中には、実家で穫れた野菜や果物が、これでもか――と言わんばかりに詰め込まれていた。兄貴は昔からマイペースな人で、俺や夢々みたいに高校生でも1人暮らしをする奴らがほとんどになってきている昨今でも、とっくに所謂社会人と言われる年となったというのに実家から離れずに《作家》という今では世間からマニアック認定されている職業に就いている。
これだけは断言するが、《作家》がマニアックな職業だと思っている奴らは視野が狭いと思うし、俺には《作家》を否定する気なんて更々ない。
せいぜい、今のこの時代に職業として《作家》を選ぶ兄貴はちょっとだけ変わり者なんだなと思うくらいだ。
何より、兄貴が作家という職業に就いているのを誇らしいと心底から思う。
【えーっ……わざわざ職業として作家を選ぶなんて……今はelfyroidがいる時代なのに~……空想言語翻訳機能を使えば――人より素早く、そして美しく繊細な物語を紡げるんですよ~……elfyroidがこの世界を支えているといっても……】
【こらこら、そんなことを言っちゃいけませんよ……作家だって立派な職業だからね――え~……ではここで、一旦CMを挟みます】
ピタリ、と――段ボールの箱を漁っていた手を止め、ふっとテレビの方へと目線を向けた。其処には、端正な顔立ちをした名前すら分からない女性アイドルが腰までありそうなくらいに長くて真っ直ぐな栗色の髪の毛を指先でくるくると弄りながら隣に座っている司会者の男性と話をしていた。耳まで覆ってしまうくらいの髪など――今は夏なのに暑苦しくないのだろうか、と下らない事を思いつつ、俺は段ボール漁りを再開する。
どうやら、テレビ番組の内容は――《作家》についての口論だったらしく、身内に《作家》を持つ俺としてはモヤモヤした気分だったが、そんな憂鬱な気分も――段ボールの箱の底に隠れるようにして置いてあったある物を目にすると勢いよくぶっ飛んでしまった。
《elfyroid――O.A.O型のお買い上げありがとうございます》
底に入っていたのは中央に目をうるうるさせつつ上目遣いをしてるエルフ(しかもショタっ子)の萌えイラストが書かれていて、しかも右下に上記のような挨拶文がそっ、と書かれている四角い箱だった。
《elfyroid》に、まるで興味のない俺に対する嫌がらせだ――と俺は電話をガッと取ると、そのまま眉間に皺を寄せて兄貴がいる実家のダイヤルを押すのだった。
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